なお、サウジからはムハンマド皇太子がくるとされていたが、ここにきて、不透明になってきた。トルコのイスタンブールにあるサウジ総領事館で起きたサウジ人ジャーナリスト殺害事件で独立調査に当たっていた国連特別報告者が「ムハンマド皇太子を含むサウジ政府高官の個人的な責任をについてさらなる捜査を行う根拠となる信頼するにたる証拠」があるとの捜査結果を公開した。せっかく、日本とサウジの両国間で多くの協力合意が締結されたというのに、これもまた日本にとって頭の痛いところであろう。
推理小説なら米国が犯人
イランと対立するサウジアラビアのメディアは、安倍首相のイラン訪問について厳しく論評することもなく淡々と報じていたが、オマーン湾でのタンカー攻撃事件をきっかけにここぞとばかり、イラン非難をエスカレートさせている。
ただ、今のところ、事件の実行主体が誰なのかわかっていない。推理小説的にいうと、事件で一番得をするのが犯人である可能性が高いし、最初に大声で騒ぎ立てたのが真犯人ということもある(攻撃能力があるのはもちろんだが)。となると、米国が一番怪しいことになる。
米国には多くの前科があるので、いくらイラン犯人説を主張しても、信用されなくなっている。米国がベトナム戦争に介入するきっかけとなったトンキン湾事件しかり、イラク戦争しかりである。米中央情報局(CIA)が1953年に、イランの首相(当時)モハンマド・モサッデグを失脚させるクーデターに関与したことも明らかになっており、イランに関してはなおさらだ。
そもそも、イランの核兵器開発を阻止するため、2015年に米英仏中露+独とイランのあいだで結ばれた包括的共同作業計画(JCPOA、いわゆる「核合意」)から勝手に離脱し、ペルシャ湾での緊張状態をエスカレートさせた張本人は米国である。
イランの保守派、イラン系武装組織の仕業との見立て
もちろん、イラン犯人説でも「それなり」に筋の通っているものもある。JCPOAの合意に難色を示していたイラン国内の強硬派には、ちゃぶ台返しのようなことをしたいと考えている勢力がいるかもしれない。
また、イランが、米国の制裁強化でにっちもさっちもいかなくなっているなかで、イランを怒らせると、ホルムズ海峡の自由な航行が危うくなるというメッセージを送ったのだとの説もある。実際、イラン・イラク戦争中の1980年代、イランはホルムズ海峡を航行する船舶を攻撃し、いわゆる「タンカー戦争」を引き起こしている。また、ペルシャ湾での緊張を高めることで、「これ以上事態が悪化すれば、全面的な武力衝突になりかねない、だからそうなるまえに何とかしろ」と国際社会に訴えているといった見立てもある。
イランはむろん、こうしたイラン非難を完全否定している。状況が悪化して、米国との全面戦争になれば、イラン現体制がもたなくなる、そのリスクを考えれば、このような火遊びをするはずがない、という見方も成り立つ。
もちろん、主流派がコントロールできない勢力の犯行という可能性は否定できない。イランが直接手を下すのではなく、イランの息がかかっているとされるレバノンのヒズボラ、イエメンのフーシー派、湾岸のシーア派組織などの手駒にやらせて、自分はしらを切りとおすという反論もあるだろう。
さらに、事件直前、スパイ容疑で4年前にイランが逮捕していた、米国永住権をもつレバノン人を釈放している。これは、イランが米国に送った善意のメッセージであったとも考えられる。だとすれば、タンカー攻撃の流れとは矛盾する。
ちなみに、筆者は、安倍首相のイラン訪問で、何らかの成果が上がるとすれば、イランで今も拘束中の米国人の釈放ではないかと考えていたが、残念ながら実現していない。
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