北朝鮮が韓国に対する態度を硬化させている。6月16日は、南北関係改善の象徴である共同連絡事務所を爆破するに至った。その意図は何なのか、朝鮮半島政治研究の重鎮である小此木政夫・慶応義塾大学名誉教授は「南北対話と米朝交渉をご破算にして、一からやり直すことにある」と見る。今後の展開はいかに進むのか。
(聞き手 森 永輔)

北朝鮮が、韓国に対して厳しい姿勢を取り続けています。発端は5月31日、韓国で活動する脱北者団体が、「偽善者 金正恩」などと書かれたビラを積んだ大型風船を飛ばしたことでした。これに対し、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が6月4日、「悪意に満ちた行為が『個人の自由』『表現の自由』という美名の下に放置されるなら、南朝鮮(韓国)当局は遠からず最悪の局面まで見込まなければならない」との談話を発表して応酬が始まりました。与正氏は金正恩(キム・ジョンウン)委員長の妹です。
北朝鮮はその後、6月9日に南北間の通信回線を遮断。同13日には与正氏が「遠からず北南共同連絡事務所が跡形もなく崩れる光景を目にするだろう」と発言し、同事務所の破壊を予告。同16日には実際に爆破に及びました。さらに17日には、開城(ケソン)と金剛山(クムガンサン)に軍部隊を展開する意図を明らかにしています。いずれも南北融和の象徴となる場所です。
北朝鮮はなぜ、このように姿勢を硬化させたのでしょう。

慶応義塾大学名誉教授。 専門は韓国・北朝鮮政治論。法学博士。1969年に同大法学部を卒業。1971年に同大学院政治研究科修士、1975年に法学研究科単位取得退学。著書に『朝鮮分断の起源--独立と統一の相克』など。
小此木:北朝鮮は、韓国を米朝交渉の仲介役としか見ていません。しかも、その役割は終わりました。それをご破算にして、米朝交渉を一からやり直す決断をしたのだと思います。2018年4月に板門店で南北首脳会談、そして6月にシンガポールで第1回米朝首脳会談が行われて以降、積み上げてきた関係をなかったことにし、初めからやり直そうとしている。その前哨戦として南北関係をリセットし始めたのです。米国に対する示威行動でもあります。
え、ご破算ですか。
小此木:そうです。北朝鮮が南北対話を遮断して、長距離ミサイルの発射頻度を高めていた2017年の状況に戻る。
金正恩委員長はドナルド・トランプ米大統領とディールをする気でいました。北朝鮮の体制の安全に対する保障を得る見返りとして核を廃棄する、という取引です。
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