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何を実現すると、米有権者に成果としてアピールできるのでしょう。

坂梨:イランに要求している12項目のうちいくつかを実現するよう、イランに譲歩させることでしょう。トランプ大統領は5月に来日した際、「イランが核兵器さえ持たなければよい」という発言をしています。なので、12項目の中にも優先順位があるのだと思います。

 トランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長が最初に行った会談も参考になるかもしれません。「北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む」ことで合意、両首脳が握手する映像を米国民に届けました。合意の内容は具体的ではありませんでしたが、敵対する国の最高指導者と会い、ディールできたのは自身の功績である、とトランプ大統領はアピールしました。

 でも、先ほど申し上げたように、ハメネイ師がトランプ大統領に会うことは非常に考えづらいですね。

ロウハニ大統領がトランプ大統領に会うのでは不十分なのでしょうか。

坂梨:対イラン制裁が解除されることが確実な状況にならないとロウハニ大統領も動かないでしょう。とはいえイランの認識において、制裁の解除は核合意本来の姿に戻ることを意味するにすぎません。

 イランは米朝協議の動向をよく知っています。米国が北朝鮮に科す制裁は全く解除されていません。まとまりそうだった第2回首脳会談も制裁解除にはつながらなかった。ロウハニ大統領は同様の会談には決して応じないでしょう。

日本の視点はどうでしょう。

坂梨:日本にとっては、戦争を起こすことなく、中東地域を安定に導くことが国益です。

 もう1つはイラン核合意を維持すること。日本も欧州も、今もイラン核合意は今日の核不拡散体制の要であると位置づけており、米国に続きイランが核合意を離脱することで合意が崩壊することを望んでいません。

1回の会談で状況が変わるものではない

トランプ大統領が望む、米国民にアピールするような成果を、安倍首相のイラン訪問は実現することができませでんした。

坂梨:それは当然のことです。ハメネイ師は「米国とは交渉しない」とずっと言い続けてきました。安倍首相と1回会っただけで、それを撤回し、首脳会談に応じることはあり得ません。

イランが望む制裁の緩和も実現できませんでした。イラン側は「ハメネイ師と会う以上、安倍首相は米国から妥協案を取り付けている」とみていた、との見方があります。そうだとすると、イランの失望を買った可能性も考えられます。

 また、安倍首相はイランを訪問する前にトランプ大統領を説得し、核合意に復帰させるのが筋だったという意見もあります。そもそも、米国が離脱したのが事の発端ですから。

坂梨:私は、今回のイラン訪問は、米国とイランが望むことを実現するというよりも、戦争につながりかねない緊張を緩和し、両国が将来対話できるよう環境づくりを進めることが主眼だったと考えています。イラン側も1回の会談で大々的な進展があるとは期待していなかったと思います。

 米国を核合意に復帰させるのは、トランプ氏が大統領である限り不可能でしょう。2016年の大統領選のときから同氏は「就任した初日にイラン核合意から離脱する。これは最悪の合意だ」と明言していました。それだけ、この離脱を重視しているのです。トランプ大統領を説得して核合意に復帰させられなかったと安倍首相を責めるのは、それこそ筋違いです。

米国とイランは今にも戦争を始めるほどの緊張状態にあるのですか。2017年春の米朝の関係のような。

坂梨:そこまでの状態ではないと思います。原油価格の動きもそれを示しているでしょう。日本企業が運航するタンカーが攻撃された後、少し上がりましたが、すぐに元に戻りました。