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イラン沖のホルムズ海峡で6月13日、日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けた。日本企業が絡むこともさることながら、安倍首相がハメネイ師と会談するタイミングをとらえて起きた出来事に衝撃が走った。この事態から浮かび上がるメッセージは何か。駐イラン大使を務めた経験を持つ孫崎享氏に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

孫崎さんは今回の件をどう見ていますか。

孫崎:安倍晋三首相による仲介外交が機能しなかったことを示していると思います。

孫崎 享(まごさき・うける)
1943年生まれ。1966年東京大学を中退し外務省に入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。その後、防衛大学校教授を務める。著書に『日米同盟の正体』(講談社現代新書)『情報と外交』(PHP研究所)など。(写真:菊池くらげ、以下同)

 今回のタンカーへの攻撃が本当にイランによるものかどうかは分かりません。しかし、同様の事態が頻発している事態を見ると、イランにつながる勢力による可能性が高いと思います。現在のイランは穏健派よりも保守強硬派が力を持っている。強硬派が米国に譲歩しない意思を示すために実行したと見ることができます。

 安倍首相がイランを訪問し、ロウハニ大統領や最高指導者のハメネイ師と会談しても、強硬派の動きをとどめることはできなかったわけです。

 安倍首相が仲介役を果たすつもりなら、トランプ大統領が訪日し、会談した際に、イラン核合意に復帰するよう説得すべきでした。緊張が高まった発端は、米国が2018年5月に同合意から離脱したことですから。しかし、安倍首相とトランプ大統領がイラン核合意復帰をテーマに話し合ったとの報道はありませんでした。

 安倍首相と会談した後、ハメネイ師は想像以上に強硬な発言をしました。「トランプ氏を、メッセージを交換するに値する人物とみなしていない」と語り、米国との対話を拒否しました。この発言からも安倍首相のイラン訪問が成果を上げなかったことが分かるでしょう。

今回の攻撃が、イランにつながる勢力だったとして、安倍首相がイランを訪問しているタイミングで、日本企業が運航するタンカーを狙ったことは何を示すでしょう。比較的良好な日本との関係を壊すことになれば、イラン強硬派にとっても好ましい話ではないのでは。

孫崎:私は、日本企業が運航する船であったのは「たまたま」だと見ています。攻撃された船はパナマ籍で、日の丸を掲げていたわけではないでしょう。

偽装工作の可能性は低い

米国のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら対イラン強硬派が、事態をかく乱するため偽装工作を行った、という陰謀論的な見方があります。

孫崎:私はその可能性は低いと思います。ホルムズ海峡を航行する船舶が5月に最初に攻撃されたとき、私も陰謀論が頭に浮かびました。しかし、同様の事態が頻発しているのを考え合わせると、陰謀論は難しいと思います。暴露する可能性が高くなるようなことをするのは考えづらいですから。

米国ではなく、サウジアラビアなどの反イラン勢力が偽装に手を染めるケースは考えられますか。

孫崎:そちらもないでしょう。理由は米国のケースと同様です。

2015年に成立した安保法制が議論されていた際、ホルムズ海峡が封鎖されるケースが議論の俎上に乗りました。今後、そうした事態が起こる可能性はあるでしょうか。

孫崎:イランが1カ月に1回、一時的に封鎖する、といったことはあるかもしれません。しかし、継続的に行うことはないと思います。イランが取る行動は、警告的なものにとどまると考えています。