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6月7日にメイ英首相が保守党党首を辞任した。新党首が決まり次第、首相も辞任する。10日に保守党の党首選の立候補を締め切り、多くの候補者が次期首相に名乗りを上げた。混迷する英国政治のかじ取りを誰が担うのか。大和総研ロンドンリサーチセンター長の菅野泰夫氏に新首相の見通しと、今後のEU離脱交渉の展望を聞いた。

(聞き手は大西孝弘)

これまで英国のEU(欧州連合)離脱交渉の先頭に立ってきたメイ氏が英首相を辞任します。リーダーとしてどのように評価していますか。

菅野泰夫氏(以下、菅野):どれだけ批判されても粘り強く交渉する姿は胸を打つものがありました。しかし、戦略には最後まで大きな疑問符がつきました。最大の失敗は2017年6月に総選挙に打って出て保守党の過半数割れを招き、その後の混迷の原因を作ったことです。それと最後に、野党の労働党との協議は多くの支持者の失望を招きました。自身の延命を図ったように映ったからです。

菅野泰夫(すげの・やすお)氏
1999年大和総研入社。年金運用コンサルティング部、企業財務戦略部、資本市場調査部(現金融調査部)を経て2013年からロンドンリサーチセンター長兼シニアエコノミスト。研究・専門分野は欧州経済・金融市場、年金運用など。

6月10日に保守党の党首選の立候補を締め切り、多くの候補者が名乗りを上げています。今後の見通しはいかがでしょうか。

菅野:6月20日ころまでに決選投票に進む2候補に絞り込み、英議会が休会に入る7月22日の週までには新党首が決まります。決選投票は、約12万人いる保守党一般党員による郵送による投票です。

 ただ、候補者の大乱立を受けて、保守党は期間短縮のため党則を変更しました。従来は1回の投票で得票率が最も少ない議員が1人ずつ脱落する方式でしたが、1回目の6月13日の投票では、約5%にあたる得票率が、次回投票に進む際の最低条件となりました。この最低条件を超えない候補者は全員落選となります。さらに2回目の6月18日の投票では、約10%にあたる得票率までハードルを上げ、決選投票の2候補まで一気に絞り込みを目指します。ただしここまでで決定しない場合は、さらに6月19日に3回目、20日に4回目の投票が予定されており、それぞれ従来通り得票率が最も少ない議員のみが脱落します。

 有力候補は4~5人いますが、ジョンソン前外相が頭一つ抜けています。強硬離脱(ハードブレグジット)を目指す路線が明確で、保守党党員から熱狂的な支持を受けています。党首選でジョンソン氏に投票するために、労働党から保守党に鞍替えした党員もいるほどの人気です。ロンドン市長としての実績もあります。

ジョンソン前外相は保守党党員から人気があるが、極端な発言が多く毀誉褒貶(ほうへん)がある(写真:ロイター/アフロ)

ジョンソン氏に死角はないのでしょうか。

菅野:あるとすれば、3回目以降の議員投票が実施された時です。政敵も多いために、反発する議員たちが結束して、ジョンソン氏を落選させる可能性があります。現段階で保守党下院議員の全313人のうち約140人が、どの候補を支持するかまだ意思表示をしておらず、残留派や強硬離脱派の最右翼らの意向が注目されています。ただジョンソン氏が決選投票まで残れば、一般党員からの人気が絶大なので負けることはないでしょう。