ウクライナのアゾフスターリ製鉄所に立てこもっていた兵士の妻らは、中国大使館前で支援を要求していた(写真:AP/アフロ、撮影は2022年5月17日)
ウクライナのアゾフスターリ製鉄所に立てこもっていた兵士の妻らは、中国大使館前で支援を要求していた(写真:AP/アフロ、撮影は2022年5月17日)

 ロシアのウクライナ侵攻が、国際社会に大きな衝撃を与えている。特に欧米諸国が受けた心理的打撃は大きい。欧州は、戦後国際秩序がしっかりと根づき、ルールも仕組みも比較的完成し、国際社会で最も進んだ地域とみなされてきた。その欧州において、ロシアが武力という最も粗野な手段を使って国際秩序を破壊したからだ。日本も先進民主主義諸国の一員として大きな衝撃を受けている。

 その危機感が、欧州において東西冷戦構造を忽然(こつぜん)とよみがえらせた。ロシアに対抗して、日本を含む「西側」(NATO*+EU**+G7***)の枠組みが自然に再生されたのだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の判断を西側が読み誤っている可能性は高い。

*:北大西洋条約機構 **:欧州連合 ***:主要7カ国

 今回の戦争の実質は、ウクライナという国を借りた米欧とロシアの地政学的抗争であり、長引く。この戦争がどういう終わり方をするのか、プーチン路線は生き残るのか、米欧の団結はいつまで続くのか、といった多くの要因が、ポスト・ウクライナ戦争の世界のあり方を決めるだろう。

 戦争が終わるまで、西側は現行の国際秩序を擁護し、その中で生き続けるために、ロシアの排除ないし無害化を経済を含めて図るつもりだ。プーチン路線が続く限り、欧州における東西冷戦構造は固定化する。欧州は分断されたということだ。

ウクライナ戦争で「大国間の戦争」の可能性を再認識

 それだけではない。ロシアのウクライナ侵攻は、欧州にとどまらず世界全体を分断の方向に押しやり、アジアを揺さぶり始めた。米中の「協力と競争」の関係は、ジョー・バイデン米大統領が、「そうはしない」とはっきり言っていた「対立」関係に転化しかねない状況になってきている。ウクライナ情勢は、間違いなくその流れを助長している。

 とりわけ米国は、台湾へのテコ入れを急ぎ、台湾問題に関する中国の外交的レッドラインを試し始めている。これに対し中国は、米国に対する警告として軍事的動きを強め、米国の軍事的レッドラインを試す動きを強めている。プロセス管理に失敗すると、本当に軍事衝突が起こる厳しい状況にあるのだ。

 ウクライナ戦争が、中国の台湾軍事解放のきっかけになるという話をよく聞くが、それはない。中国が台湾に対し軍を動かすかどうかは中国の内政が決める。ウクライナ戦争の教訓は、実際に軍を動かすときには最大限に活用するだろうが、軍を動かすかどうかの政治的決定に大きな影響を及ぼすことはない。

 中国は、ロシアとの特別の関係を強調し、ロシアが国際関係の根本原則を蹂躙(じゅうりん)したにもかかわらず、それを非難せず、むしろ責任を米国とNATOに転嫁する姿勢をとった。これが中国の異質性を強く印象づける出来事とみられ、米国のみならず欧州の対中姿勢をさらに厳しいものとしている。

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