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日独でPCR検査体制の拡充に差が出たのはなぜだったのか(写真:AFP/アフロ)
日独でPCR検査体制の拡充に差が出たのはなぜだったのか(写真:AFP/アフロ)

 ドイツ政府は現在、毎日約6万件のPCR検査を実施しており、将来はこの数をさらに増やす方針だ。そのために保険適用に関する法律の枠組みを整備した。

 ドイツでPCR検査を受けるには、どのくらいの費用がかかるのだろうか。この国では市民の90%が公的健康保険に加入している。残りの10%に当たるのは自営業者や高所得層で、民間の健康保険を買っている。

 PCR検査の費用は、検査機関と健康保険の種類によって違いがある。公的健康保険に加入している患者がハンブルクのある検査機関でPCR検査を受けたところ、約128ユーロ(約1万5000円)かかった。一方、民間健康保険に加入している人がデュッセルドルフのある検査機関から請求されたPCR検査費用は、約235ユーロ(2万8000円)だった。

 公的・民間健康保険とも、発熱などの症状がある市民のPCR検査費用をカバーする。さらに、新型コロナウイルスが流行している国から帰国した人、感染者と接触した人についても同様だ。

 このためシュパーン保険大臣は5月14日に感染症予防法の改正案を連邦議会で可決させ、無症状の市民に対するPCR検査の費用も公的健康保険でカバーできるようにした。これによって、集団感染の危険が高い高齢者介護施設に住んでいるお年寄りや、介護士たちに対し、予防的なPCR検査を実施しやすくなった。

 ドイツではロックダウンを緩和した後、教会、レストラン、介護施設、食品工場、郵便会社の配送センター、亡命申請者の居住施設などでクラスターが見つかっている。政府は将来、そうした環境で1人でも感染者が見つかった場合、全員を隔離し無症状者も含めて全員にPCR検査を実施する方針だ。

認証済み民間検査機関を使った分散体制が成功

 ドイツのPCR検査数が日本よりも大幅に多い理由の1つは、医師会の認証を受けた民間の検査会社に、積極的に分析作業を行わせていることだ。中央集権的ではない、分散型のシステムが、多数の検体を分析することを短期間で可能にした。

 認証済み民間検査会社の団体ALMによると、2020年5月までにドイツで実施された新型コロナウイルスに関するPCR検査の90%は、これらの民間検査会社が判定している。ドイツには認証済みの検査会社が250社あり、そこでは900人の専門医と、2万5000人の検査担当者が働いている。保健所が集めた検体は全国にある検査会社に持ち込まれ、通常24時間以内に陽性・陰性の判定を下す。判定結果は保健所に通知される。現在、保健所での業務が過重になっているため、保健所が検査結果を患者に通知するのに2~3日かかることが多い。

 検査にはスイスのロシュ 、米国のホロジック 、アボット・ラボラトリーズ 、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックなどのキットが使われている。

 国立の感染症研究機関ロベルト・コッホ研究所(RKI)のロター・ヴィーラ―所長も、5月6日に行ったドイツのメディアとのインタビューの中で「250社の認証済み民間検査会社は、我が国の検査数を増やす上で大きな役割を果たした」と認めた。

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