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米中が、2010年のレアアースショックで得た教訓を元に攻防を繰り返している。中国はWTOルールに抵触することなくレアアースの供給を絞る策をすでに進めている。その大義名分は「環境」保護だ。一方の米国は中国に代わる供給源を豪州に求める。ここでも「環境」 が大きな役割を果たした。レアアース市場に詳しい、平沼 光・東京財団政策研究所 研究員に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

レアアースの関連施設を視察する習近平国家主席。後ろの壁に「稀有金属産業基地」の文字がみえる(写真:新華社/アフロ)

米中の貿易戦争が激しさを増す中、中国がレアアースを報復の材料にすることをほのめかし始めました。国家発展改革委員会が5月28日に声明を出し、「中国はレアアースの生産大国だ」と指摘。中国共産党系メディア「環球時報」の編集長も同日、ツイッターに「私が知る限り、中国はレアアースの対米輸出規制を真剣に検討している」と投稿しています。

 レアアース市場において中国はどの程度の重要性を持っているのでしょうか。また、対米輸出規制を発動する可能性はどの程度あるのでしょうか。

ジスプロシウムの価格が260ドルから290ドルへ

平沼:レアアースは17種類の元素の総称で、総体としてみると中国からの供給が市場全体の8割を占めます。

平沼 光(ひらぬま・ひかる)
東京財団政策研究所 研究員

1966年生まれ。明治大学卒業、早稲田大学社会科学研究科修士課程修了・博士後期課程。日産自動車を経て2000年に東京財団に入団。外交・安全保障や資源エネルギー分野のプロジェクトを担当。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 低炭素社会戦略センター特任研究員も務める。専門は環境・資源エネルギー問題(撮影:菊池くらげ、以下同)

 17の元素は大きく軽希土類と重希土類に分かれます。石油の精製に使用されるランタンをはじめとする軽希土類については、中国が輸出規制を講じても大きな影響はないものと見られます。国家発展改革委員会が声明を出して以降、今日(編集注:6月3日)まで、市場価格は動いていません。ランタンの価格は1kg当たり5.4ドル程度で安定しています。

 これは、インドやオーストラリアなどの代替供給源が見込めるからです。軽希土類は鉄酸化物型鉱床、カーボナタイト型鉱床、漂砂型鉱床などで産出します。これらの鉱床は世界に広く分布しています。

 一方、重希土類は影響が出ています。電気自動車の駆動モーターに使用する高効率磁石の材料となるジスプロシウムの価格は5月23日には1kg当たり260ドル程度だったものが、6月1日には290ドルに上昇しました。同じく磁石に使用されるネオジムの価格も同52.5ドルを下回っていたものが63ドル超に跳ね上がりしました。いずれも主要供給源が中国に限られるので市場が慌てて反応したものとみられます。

 重希土類の産地は今のところイオン吸着鉱が主。そして、この鉱床が広がる地域は中国南西部やミャンマーなどに限られています。アルカリ岩型鉱床からも産出しますが、今の抽出技術も確立されておらず、コストが高くつきます。

「環境」を理由に供給を絞る中国

すると、重希土類については、中国による輸出規制が威力を発揮しそうですね。

平沼:話はそう単純ではありません。実はレアアースをめぐる米中の争いは2010年からずっと続いており、お互いにさまざまな手を打ってきているからです。この年、尖閣諸島の付近で中国漁船が日本の海上保安庁の巡視船に衝突した事件を契機に、中国はレアアースの対日輸出を実質的に禁止しました。これにより、レアアースの戦略的価値が明らかになったのです。