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 第2は、昨年と比べ、FOIP戦略の内容がより具体化していることだ。演説後の質疑応答で米ワシントン・ポスト記者からの「今回の演説が昨年と変わっていない理由は何か」といった意地の悪い質問に対し、同長官は「昨年との根本的な違いは予算・資源投入の有無である。以前のFOIPは戦略だけで、予算と資源を伴っていなかったからだ」と反論した。さらに、同長官は演説の中でFOIP戦略につき、こうも言及している。

  • ・FOIP戦略は単なる言葉だけではない。
  • ・同戦略には国防総省の予算配分という裏打ちがある
  • ・これは単なる戦略ではなく、具体的な諸計画を伴うものである
  • ・これらの計画には宇宙、サイバー、対潜水艦、戦術航空機、C4ISR*、ミサイル防衛などが含まれる
*:Command, Control, Communications, Computers and Intelligence, Surveillance, Reconnaissanceの短縮表現

 第3に、最も重要な点に触れよう。同長官代行は演説の中で、FOIP戦略において「共通目標を支援する協力的な地域安全保障ネットワークの構築を進めて」おり、「関係各国は主権をしっかりと確保し、独立した決断を行うための能力獲得に投資してほしい」と呼びかけている。要するに、米国の同盟国・パートナー国に自身の防衛能力や抑止力を強化するよう求めているのだ。ここでのキーワードは「ネットワーキング」と「投資」である。

新たな多国間安全保障ネットワークへ

 以上の通り、今回の演説でシャナハン国防長官代行は、最近の中国の動きを個別かつ具体的に厳しく批判するとともに、国防総省がFOIP戦略に国防予算を重点的に投入して、具体的武器システムの近代化計画を開始したことだけでなく、今後は同盟国・パートナー国と安全保障面でより緊密で具体的なネットワーク化を進め、その中で統合作戦や共同作戦を実施することにも言及しているのだ。これは一体何を意味するのか。ポイントは3点ある。

 第1は、今回の演説と新たに発表されたFOIP戦略に関する報告書を通じ、米国がインド洋と東アジア地域で、新たな安全保障の枠組みの構築に向け、本気で具体的に動き出したらしいということだ。もちろん、そうした枠組みはNATO(北大西洋条約機構)のような多国間相互安全保障条約に基づく「条約機構」ではない。そんな組織が今の段階で実現可能とは思わない。しかし、米国が従来バラバラに発展してきた2国間の安全保障の枠組みを再構築し始めた意味は小さくない。

 第2は、そのような新たな枠組みに参加する国々をいかに確保していくかである。オーストラリアが参加する可能性は高い。問題は韓国やフィリピンといった米国の同盟国でありながら中国への配慮を余儀なくされる諸国の参加の有無だ。仮にこれらの国が参加したとしても、他のパートナー諸国、特にASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の参加がどこまで得られるかも重要だ。さらに死活的なことは非同盟2.0の国インドの参加の有無とその程度だろう。前途は多難である。

 最後は、このような新たな安保ネットワークは必然的にいずれ多国間の枠組みに発展していく可能性があるということだ。そのとき、日本はいかなる貢献をすべきなのか、そして実際にそれを行えるのか。望ましい貢献を実施するための法的枠組みは現状で十分なのか。その際は憲法改正問題も再浮上し、日本政府は難しい政策判断を迫られるかもしれない。FOIP戦略を具体化することは日本にとって決して容易な決断ではないのだ。