香港で反中デモ 「国家安全法」導入に抗議(写真:AP/アフロ)

 5月28日、中国の全国人民代表大会(全人代)は、国家分裂や中央政府転覆を企図する反体制的言動を禁ずる国家安全法を香港に導入する方針を圧倒的多数で承認した。対するドナルド・トランプ米大統領は翌29日、中国が「一国二制度」を「一国一制度」に置き換えたと批判、WHO(世界保健機関)との関係断絶や従来香港に認めてきた優遇措置の撤廃など一連の対抗措置をとる旨を発表した。今や米中関係は抜き差しならぬ状況に陥りつつある。

「一国二制度」の終わりの始まり?

 最大の問題は、今回の措置が香港の「一国二制度」の「終わりの始まり」を示唆していることだ。法的に見ても、中国の措置は疑問なしとしない。香港の憲法に相当する香港基本法の23条は香港に国家安全法の制定を義務付けている。これまで香港が同法の制定を怠ってきたことは事実だろう。業を煮やした中国は中国国法の香港適用について規定した基本法18条を援用し、香港国家安全法の導入を強引に進めようとしている。

 確かに基本法は国法を香港に適用することに関する解釈権を全人代の常務委員会に委ねている。だが、同時に18条は「外交と防衛に関するものを除き、国法は香港には適用されない」とも定める。されば、今回のように全人代が一方的に、かつ外交でも防衛でもない治安関連法令を、香港基本法の中に直接書き込もうとする動きは、基本法18条と23条の拡大解釈と批判されても仕方なかろう。しかも、問題はこれだけではない。

国際社会に背を向け始めた中国

 外交的に見ても大いに疑問がある。今回の中国の措置は1984年に出された中英共同宣言に対する重大な違反である可能性が高いからだ。現行の民主的諸制度維持と「香港の高度な自治」を確認した宣言だ。一部には「中国の内政に外国が干渉するには限度がある」と主張する向きもある。だが、中英共同宣言は国際法上拘束力を有する国際約束として既に国連に登録済みだ。その歴史的合意を今や中国は「無効」と言い張るのだから、問題は極めて深刻なのだ。

 一方、中国には中国の論理がある。そもそも、アヘン戦争以来の歴史的屈辱を晴らして何が悪いのか。中国の国力は米国にほぼ追いついた。だが、今真正面から戦えば、返り血を浴びるばかりか、下手をするとこちらが危ない。他方、トランプ政権は国内の新型コロナウイルス感染拡大と暴動騒ぎで忙殺されている。東アジアで大規模軍事攻勢を仕掛ける余裕はないだろう。されば、今こそが香港を骨抜きにする千載一遇のチャンスではないか。

 こうした中国の動きは今回が初めてではない。2010年代半ばには南シナ海の人工島建設事件があった。当時も米国は内向き傾向の強いオバマ政権。中国は、米側が強く反発しないことを確かめた上で岩礁埋め立て工事を強行していった。このように、中国は対外政策で決してむちゃな冒険をしない。状況を見極めて、相手が動けない「力の真空」が発生した時にしか動かない。ということは、

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