イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの間で、ガザ紛争が再燃した。イスラエル軍による空爆に対して世界各国で批判の声が上がった。このとき、ドイツはイスラエルを擁護する立場を取った。その裏には、ナチスによるユダヤ人迫害への反省がある。ぶれない歴史認識に基づくドイツの外交政策の表れだ。

イスラエル軍の攻撃を受けたガザの町並み(写真:AFP/アフロ)

 去る5月20日午前10時40分、ドイツのハイコ・マース外相は、テルアビブのベングリオン空港に降り立った。このときイスラエルは「紛争地域」だった。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織のハマスがイスラエルにロケット弾を撃ち込み、イスラエル側は戦闘爆撃機でハマスの拠点を攻撃していた。イスラエルでは時折、ハマスのロケット弾の襲来を伝えるサイレンが鳴り響き、迎撃ミサイル「アイアン・ドーム」が青空に白い弧を描いて、ロケット弾を破壊するのが見られた。

ドイツ外相は停戦前に紛争地域に飛んだ

 マース外相は、イスラエルのガビ・アシュケナージ外相とともに、テルアビブ東部ピタハ・テクバ地区の住宅街で、ハマスのロケット弾によって破壊されたアパートを視察した。1階が駐車場、2階が住宅になっているこの建物は、5月13日の午前1時頃に、ロケット弾の直撃を受けた。大半の住民は警報を聞いて地下の防空壕(ごう)に逃げたが、逃げ遅れた住民5人がガラスの破片で軽傷を負った。

 マース外相は、アパートの2階の部屋に案内された。外壁には人間の身長を超える穴がぽっかりと開いており、爆発力の強さを物語る。床は家具の残骸、コンクリートの塊とガラスの破片で覆われている。窓ガラスは全て吹き飛び、壁は硝煙と炎によって真っ黒に焦げている。1階の駐車場だけでなく、家の前にとめられていた車もほぼ完全に破壊されている。焼け跡を歩くマース外相の表情は硬く、目の下には疲労のために隈(くま)ができていた。

ドイツはイスラエルとの連帯を表明

 マース外相は、ベンヤミン・ネタニヤフ首相とも会談した。その際に同外相は、今回の紛争でドイツがイスラエル側に立つ姿勢を強調した。「私は皆さんとの連帯を示すため、ここにやって来た。イスラエルは、ガザ地区からのロケット弾による攻撃に対して自衛する権利がある。イスラエルを殲滅(せんめつ)すると宣言しているテロ組織がこの地域に存在する限り、皆さんが国民を守ろうとするのは当然だ」と述べた。

 さらに同外相は「私たちドイツ人は、そのために貢献することを約束する。我々にとってイスラエルの安全は、ドイツに住むユダヤ人の安全と同様に、絶対に守らなくてはならないものだ。我々の連帯表明は、言葉だけにとどまることはないだろう」と述べ、イスラエルの立場を擁護した。

 G7加盟国のうち、停戦に至る前の、ロケット弾の飛来を知らせる警報が鳴り響いている時期に、外相をイスラエルへ送り、支持の姿勢をはっきり打ち出したのは、ドイツだけだ。イスラエルのアシュケナージ外相は、「ドイツは、我々の自衛権を認めてくれた国の1つだ。ドイツは中東和平の糸口を探る上で重要な役割を演じている」と述べ、マース外相に感謝の意を表した。

 マース外相はその後、ヨルダン川西岸地区のラマラで、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長やムハンマド・シュタイエ首相とも会談し、停戦へ向けて努力するよう訴えた。パレスチナ自治政府とハマスの関係は必ずしも良好ではないので、アッバス議長らの影響力は限られている。しかしマース外相は、ドイツ政府がイスラエルだけに肩入れしているという印象を与えるのを避け、バランスを取るため、パレスチナ自治政府も訪問した。

続きを読む 2/5 「イスラエルは過剰防衛」との批判

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