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ラマダン期間の祈りの風景(写真:Saudi Press Agency/ロイター/アフロ)

 緊急事態宣言が解除になったとはいえ、テレビも新聞も、またオンラインメディアも、依然として新型コロナウイルスに関する報道ばかりである。また、日本のメディアが、国外について言及するのはせいぜい欧米・中国・韓国ぐらいで、それ以外の地域に触れることはほとんどない。

 しかし、感染者数でいうと、中東諸国の多さも無視できないだろう。ワースト30のなかに10位にトルコ(16万0979人)、11位にイラン(14万3849人)、17位にサウジアラビア(8万0185人)、20位にカタル(以下、カタール、5万0914人)、27位にアラブ首長国連邦(UAE、3万2532人)がくる(5月28日現在)。

 この原稿を書いている5月後半に、サウジアラビアでは毎日2000人前後の感染者が確認されており、その数はトルコやイランといい勝負である。また、カタールとUAEも、人口がそれぞれ300万、1000万に満たない小国だが、感染者数はすでに日本を超えている。特にカタールは人口100万人当たりの感染者数が1万7000人を超えている。感染者の割り出し方法が異なるので、単純な比較はできないが、それでも尋常ではない数字だ。

シーア派ネットと聖地巡礼で感染拡大

 サウジアラビアを含む湾岸諸国では当初、イランからの帰国者から多くの感染者が出ていた。イランは中東で最初に感染爆発が発生した国であるものの、サウジアラビアはイランと国交を断絶しており、本来ならイランからの感染拡大は起こりえないはずだった。けれども、実際にはサウジ国内の多くのシーア派信徒が巡礼や留学などのために非合法でイランを訪問している。そこで感染し、帰国する際に感染が発覚することが多かった。ただし、現在ではイランからの波はほぼ一段落し、国内の感染拡大は2次感染・3次感染が一般的である。

 サウジアラビアで感染者数が多いのは首都リヤード(以下リヤド、累計1万8373人)や西部の商都ジェッダ(同1万3500人)といった大都市だけでなく、イスラーム(以下イスラム)の聖地、マッカ(以下メッカ、1万4978人)とマディーナ(以下メディナ、9400人)でも多くの感染者が確認されている。リヤドとジェッダの人口がそれぞれ760万、400万程度なのに対し、メッカが170万、メディナが120万程度なので、両聖地の感染の多さが目立つ。

 これは、サウジアラビアや他の中東諸国におけるイスラムという宗教の占める地位にもかかわってくる。湾岸諸国での新型コロナウイルス拡散がまずシーア派ネットワークから始まったことは前述のとおりだ。もう一つ、拡散を引き起こす可能性があるのはメッカやメディナへの巡礼である。イスラムでは一生に一度、可能であれば、メッカへの巡礼(ハッジ)を果たさねばならないという義務がある。これはイスラム暦12月(ズルヒッジャ月=巡礼月)8日から実施されるもので、ちなみに今年の巡礼は7月30日から始まる。また、義務ではないものの、巡礼月以外に行われるものをウムラ(小巡礼)と呼ぶ。

 ハッジはまだ始まらないので、問題は少ないが、ウムラは1年中実施され、世界中から善男善女がサウジアラビアに集まり、そして帰国していく。ここにウイルスが紛れ込む可能性があり、またここから世界中に感染が拡散する恐れもある(実際、サウジアラビアからトルコへの感染拡大はウムラが契機になった可能性が高い)。もちろん、サウジアラビア政府はその危険性を認識し、かなり早い段階で、メッカへのウムラ、メディナへの参詣を規制する措置を取った。また、シーア派信徒の多い、東部州のカティーフなどを地域封鎖して、シーア派ネットワークによるウイルス拡散を封じ込めようとした。