ともに、選挙基盤を“補完する副大統領候補”を選ぶ
しかしながら、両者の陣営に大きな違いは見いだせないというのが大方の識者の見方であった。そもそも、ジョコがソロ市の市長を経てジャカルタ特別州知事選挙に立候補する際、資金面で後押ししたのはプラボウォであった。また、プラボウォは14年にイスラーム勢力に接近したが、ジョコ陣営も今回、イスラーム勢力に接近した。ただし、このことだけをもってジョコ陣営全体がイスラーム勢力重視に傾いたとは考えにくい。
副大統領候補選びをみると、両陣営ともに特定のイシューにこだわるよりも、支持者のすそ野を広げることを重視していたことが分かる。
例えば、ジョコは14年の大統領選挙で副大統領候補を選出する際、スマトラに強い副大統領経験者のユスフ・カラを選んでおり、ジャワを地盤とする自身を地盤の面で補完することを意図していた。今回の大統領選挙においては、イスラーム勢力の切り崩しを目指してアミンを選んだと考えられる。もともとジョコ自身が世俗主義の色彩が濃いことを考えれば、ジョコ陣営は、大統領が世俗主義を、副大統領がイスラーム主義を体現する分業関係にあるとみてよいだろう。
他方、プラボウォ側は副大統領候補に実業家のサンディアガ・ウノを選んだ。サンディアガは、アジア通貨危機後に台頭した新興企業「サラトガ・インベスタマ・スダヤ」の社長であった。14年、プラボウォが率いるグリンドラ党の諮問委員に就任するために社長職を辞した。その後、ジョコ派とプラボウォ派が激突した17年のジャカルタ地方選挙に出馬し、副知事に当選した。
スハルト政権の影を引きずるプラボウォに対し、サンディアガは若手実業家の旗手というイメージを持っている。14年の大統領選挙以降イスラーム主義に接近していたプラボウォは、サンディアガと組むことで「ミレニアル世代」と呼ばれる若者票の取り込みを図ったことが読み取れる。ミレニアル世代は、学歴が高いものの就職に苦戦している若者たちであり、重要なのは経済政策である。
大統領選挙に見る国是「多様性の中の統一」
大統領選挙は、異なる個性を持った2人の指導者の激突であったが、両者が選ぶ副大統領候補は、自身に近い政策志向や思想信条を持つ者というより、自分とは異なる地盤を持つ人物たちであった。このことは、大統領候補たちが多様な有権者の声に応えようとした(票を得ようとした)ことを示している。結果として、先鋭的な意思決定は難しくなり、玉虫色の政治判断が横行することになりかねない。事実、ジョコ大統領も第1次政権の運営に際して、しばしば自身の陣営内の利害調整に絡めとられていた感がある。
ただし見方を変えると、大統領候補たちが特定のイシューに全てを賭けているわけではないことが分かる。もちろん、今回の選挙でイスラーム勢力が議会に多く進出し、こうした勢力が議会政治にどう関与するのかは注意深く見守る必要がある。しかしながら、今回の選挙において、両陣営がそれぞれにミレニアル世代の取り込みを図ったことを考えても、インドネシア政治の多様性は簡単に覆るものではないだろう。
インドネシアの国是である多様性の中の統一というのは、両陣営の選挙戦略に息づいているといえるのかもしれない。(敬称略)
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