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 同時に認識しておかなければならないのは、インド人のナショナリズムがヒンドゥー・ナショナリズムにとって代わられつつあることである。過去20~30年間、世代を経るにつれて、宗教を問わない世俗国家として独立した当時の記憶はなくなりつつある。有権者は経済的にも軍事的にも力強い国を求めるようになった。彼らは「連立政権では何もできない」というモディ氏とBJPの主張を受け入れ、同党が単独で政権を運営できる権力を与えたのである(注:BJPだけでなく、NDAを構成する政党は、すべてヒンドゥー教を基盤とする政党である)。

 モディ氏個人の人気も今回の勝利を説明する重要な要因である。モディ氏が人気を維持する能力にたけていた、というだけの話でない。野党の側に国家を指導できるレベルの指導者がいないことをうまく利用した側面がある。また、BJPは、メディアを通した宣伝や動員、資金集めなどを行う全国規模の集票マシンを構築しており、いくつかの例外を除いてはほぼすべての州で票を確保した。

雇用拡大が今後のカギ

 ただ、モディ氏とその政府が直面する問題は多い。ナショナリズムや特定のアイデンティティーに基づく選挙キャンペーンを行うことは容易だが、実際に政権を運営するのは、より難しい。

 政権運営の機会を得たBJPは、国家安全保障上、経済上の公約を実際に実行しなければならない。それは難しい様々な経済改革、外交政策、国防改革を実行しなければならないことを意味する。

 前回インドが経済改革に取り組んだのは1991年、インドが国内および対外的な問題を抱えた後であった。つまり過去30年近く、本格的な経済改革を行っておらず、インドは次世代の経済改革を必要としている。現状では、企業が工場の用地を購入したくても容易ではないし、従業員を容易に雇ったり解雇したりできないし、資金調達も容易ではない。これらの改革が具体的な柱となる。

 インド経済は毎年7%もの速度で成長中であるにもかかわらず、失業者が増加している。今後、毎年1000万~1200万人が就職する年齢に達するので、経済改革はそれに見合う雇用を生み出せるかが問われる。

雇用創出には製造業の育成がカギになる。モディ政権がインドの製造業を育成すべく進めてきた旗艦プログラムがメイド・イン・インディアである。その実現のために、インドは海外の投資と技術を必要としている。日本企業を含む多くの海外企業はインド政府が改革に着手することを必要としている。

 外交・安全保障政策においても、モディ政権は改革を必要としている。モディ政権は日本や米国、東南アジア諸国にこれまで以上に接近したいものと考えられる。しかし、インドの外交・安全保障政策には伝統的に積み上げてきたものがあり、変更するには時間を要する。モディ政権にとって今後の課題になるだろう。

 ただし、日本との関係についていえば、日本とインドは古代から仏教をはじめとする文化的つながりをもっており、最近も経済的・戦略的パートナーシップを築いている。新たなモディ政権の下でも、日本とインドは、重要な同盟国である米国と一緒に、多くのことを達成していくことができるだろう。

翻訳

長尾 賢(ながお・さとる)

ハドソン研究所研究員

学習院大学大学院においてインドの軍事戦略を研究し、博士号を取得。専門は安全保障、インド。2007年、防衛省「安全保障に関する懸賞論文」優秀賞受賞。学習院大学東洋文化研究所PD共同研究員、海洋政策研究財団研究員、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員、東京財団研究員、未来工学研究所研究員などを経て、現職。主にインド、スリランカ、ベトナムなどのメディアで執筆している。主書に『検証 インドの軍事戦略―緊張する周辺国とのパワーバランス』。