
「首脳外交かくあるべし」の見本のような動きが今週東京で見られた。岸田文雄首相は23日、韓国訪問後に訪日したジョー・バイデン米大統領と日米首脳会談を行った。24日には、総選挙で勝利したばかりのアンソニー・アルバニージー オーストラリア(豪州)首相およびインドのナレンドラ・モディ首相とともに、日米豪印の「Quad(クアッド)」首脳会議にも参加した。対面形式では2回目のクアッド首脳会議となった。やはり「外交は対面に限る」と感じたのは、恐らく筆者だけではなかろう。
とはいえ、発表された共同声明文や共同記者会見の内容を吟味すると、幾つか素朴な疑問が湧いてくる。そこで今回は米韓、日米首脳会談からクアッド首脳会議までの流れを振り返り、疑問の答えに可能な限り迫ってみたい。当然ながら、以下は筆者個人の見解であることをあらかじめお断りしておく。今回取り上げる疑問は7つある。
(1)クアッドはなぜ、ロシアのウクライナ侵攻を非難しないのか
(2)クアッドはなぜ、中国を名指しで批判しないのか
(3)バイデン大統領の台湾発言は「失言」なのか
(4)バイデン大統領の訪韓、訪日で日韓関係は改善に向かうのか
(5)IPEF(インド太平洋経済枠組み)は成功するか
(6)中道左派の豪州新首相は親中路線に戻るのか
(7)北朝鮮はなぜ、一連の首脳会談終了後にミサイルを発射したのか
ロシアに言及しない「クアッド共同声明」
5月24日に発表されたクアッド共同声明の「ウクライナ関連」部分は実に素っ気ないものだった。
・我々は、ウクライナにおける紛争及び進行中の悲劇的な人道的危機に対するそれぞれの対応について議論し、そのインド太平洋への影響を評価した。
・4か国の首脳は、地域における平和と安定を維持するという我々の強い決意を改めて表明した。
・我々は、国際秩序の中心は国連憲章を含む国際法及び全ての国家の主権と領土一体性の尊重であることを明確に強調した。
・我々はまた、全ての国が、国際法に従って紛争の平和的解決を追求しなければならないことを強調した。
共同声明は、ウクライナでの「紛争」と人道的危機に以上のように触れているが、「ロシア」への言及はなく、「ウクライナへの侵略」を「非難」すらしていない。一部の識者は「日米共同声明のようなロシアへの直接非難がないのは、今回、ロシアと近い関係にあるインドのモディ首相に配慮したためだ」などとコメントしているが、この指摘は必ずしも正確ではない。
なぜなら、ウクライナ「紛争」のこうした取り扱いは今回が初めてではないからだ。前回の会合である今年3月3日のクアッド首脳テレビ会議の共同発表でも、「4か国の首脳は、ウクライナにおいて進行中の紛争及び人道的危機について議論し、そのより広範な影響について評価を行った」としか述べていない。インドへの配慮があるとすれば、それはウクライナ侵攻直後から続いていると見るべきだ。
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