ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官(写真:AP/アフロ)
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官(写真:AP/アフロ)

 ロシア国営メディアは多くの国で評判が悪い。「民主主義国の同盟関係と政治機関を弱体化させるため、ロシア政府が「RT」(旧名:Russia Today)や「Sputnik 日本」などの国営メディアを使って海外で偽ニュースを広めている。欧米諸国はこう主張する。

 ロシアの国営メディアは日本でも活動している。その影響をどのように判断すべきだろうか。日本におけるロシア国営メディアの活動は、単に、日本人の関心をロシアにひき付けることが目的なのであろうか。それとも、日本の安全保障に脅威を与えようとしていると見なすべきだろうか。

日米の離間を謀るロシア

 プーチン政権が、政治的な目的を達成すべくロシア内外で活動するメディアを管理しているのは間違いない。ならば、日本でも同様の情報操作を行っているのだろうか。

 ロシア政府が日本の世論に影響を与えたいと考えているのは確かだろう。現在の米ロ関係は非常に悪いため、ロシアは米国の世界的な影響力を弱めたいと考えているに違いない。その一環として、日本と米国の緊密な同盟を弱める取り組みが選択肢に上る。セルゲイ・ナルイシキン対外情報庁長官が2020年3月、日本の雑誌のインタビューに応えて、日本が安全保障を米国に頼るのではなく「日本が中立国であればよいと思います」と述べたのはその表れだ。

 ロシア政府にとっての優先事項は、米国のミサイル防衛システムや中距離ミサイルの日本国内への配備を実現させないことである。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は3月12日、米国が日本にミサイルを配備した場合、報復措置を講じると警告した。ロシア政府は、米国が管理するミサイルが日本領土に配備されることだけでなく、米国製のミサイルを日本政府が購入し配備することにも反対している。これは、ミサイルが正式に日本政府の管理下にあるとしても、その使用は米国から完全に独立しているわけではない、とロシア政府が信じているためである。

 では、このような外交目標を達成するため、クレムリンはロシア国営メディアを日本でどのように動かしているのだろうか?

比較的無害だが、主体示さぬ「RUSSIA BEYOND」

 ロシア国営メディアは、「RUSSIA BEYOND」と「Sputnik日本」という2つの日本語サイトを運営している。欧米で物議を醸しているRTには日本語版がない。ロシア国営メディアが運営する外国語のサイトは数が限られている。よって、日本語サイトの存在は、日本に影響を与えることがロシア政府にとって優先事項であることを示している。例えば、韓国語のサイトは存在しない。

 まず、RUSSIA BEYONDを取り上げよう。これは、ロシア政府の公式新聞ロシースカヤ・ガゼータが2007年に、ロシア・ビヨンド・ザ・ヘッドラインズ(当時の社名)を創設したことに遡る。同社は2011年、ロシースカヤ・ガゼータの日本語版を「ロシアNOW」というタイトルで発行し始めた。「ロシアNOW」はしばらくの間、読売新聞の折り込みで配布されていた。しかし、その後、発行を中止。その後、オンライン版のみを継続している。このとき、タイトルを「ロシアNOW」からRUSSIA BEYONDに変更した。

 RUSSIA BEYONDはロシア文化に焦点を当て、政治的な話題を避けている。主な目的は、ロシアに対する日本人の関心を高めることにある。

 RUSSIA BEYONDがターゲットにするのは日本の若者だ。若者は年配者に比べて、ロシアに対して比較的好意的なイメージを持っている。ロシア国営メディアにとって魅力的な顧客層なのだ。例えば、内閣府が2020年に実施した世論調査によると、「ロシアに親しみを感じる者」の割合は13.6%にとどまる。ところが、回答者の年齢層を「18~29歳」に限ると、20.2%に達する。RUSSIA BEYONDはこの差に注目し、影響を与える対象の出発点として若者を選んだ。

 ロシアに対する日本の若者の関心を高めるため、RUSSIA BEYONDは面白くて気楽な記事を数多く掲載している。ソーシャルメディアで注目を集めそうな内容だ。例えば、「ロシアで一番おいしいアイス、トップ5」「ロシア美女は兵役中」「気温は氷点下39度だが、パーティーしよう!」などのタイトルが並ぶ。

 また、ロシアの軍事技術を取り上げる記事も数多くある。日本の若いミリオタ(ミリタリーオタク)を魅了する狙いがあるようだ。

 RUSSIA BEYONDが発信する記事は比較的無害だ。だが、ロシア政府が管理している事実を明示していないのは問題だ。同サイトは「RUSSIA BEYONDは、独立非営利組織『TV-Novosti』が展開する国際マルチメディア・プロジェクトです」としか説明していない。この、TV-Novostiは、国営メディアの海外での運営を管理する親会社としてロシア政府が設立したもの。しかし、その説明はない。したがって、ほとんどの日本の読者は、RUSSIA BEYONDの背後にクレムリンがいることに気付いていない可能性がある。

続きを読む 2/2 「禁止」より有効な対抗策とは

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2182文字 / 全文4580文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界展望~プロの目」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。