トランプ政権を騒がせた「ロシア疑惑」をめぐる報告書が公表された(写真:AFP/アフロ)
トランプ政権を騒がせた「ロシア疑惑」をめぐる報告書が公表された(写真:AFP/アフロ)

 米国司法省の特別検察官が、トランプ前大統領をめぐる「ロシア疑惑」への米連邦捜査局(FBI)による捜査が不当であり、欠陥だらけだったと断じる報告書をこの5月中旬、新たに発表した。その総括の大前提は、この「疑惑」自体が虚構であり、トランプ氏の政敵がねつ造したのだという断定だった。この真相の広がりは、刑事起訴までされたトランプ氏の来年の大統領選への戦いを有利にする。さらに、連邦議会において、「民主党側による連邦機関の武器化」という共和党側の非難にさらなる勢いを与える効果が予測される。

 特別検察官のジョン・ダーラム氏は5月15日、「2016年の大統領選挙戦での情報、捜査活動に関する調査」と題する報告書を発表した。同報告書は16年の大統領選にからんで浮上したドナルド・トランプ氏をめぐる「ロシア疑惑」に対するFBIの捜査の実態を中心に調査した結果の総括だった。

 この「疑惑」は同年の選挙において、トランプ陣営がロシア政府機関と共謀して、米国有権者の票を不正に操作した、という嫌疑だった。

 合計306ページに及ぶ長文の同報告書は、その容疑に対するFBIの捜査は不当な点や偏向した点が多く、全体として重大な欠陥があったと断定した。結論部分の骨子は以下の通り。

▽FBIが16年7月末から開始したトランプ氏とトランプ陣営に対する捜査(コードネーム「ハリケーン十字砲火」)は当初から、FBIが履行すべき法律の順守や法的根拠の確認という基本原則を逸脱して、トランプ陣営に非があるとする思い込みによる偏向に特徴づけられていた。

▽FBIは、トランプ陣営とロシア政府との共謀という「不正疑惑」について、後に虚構やねつ造だと判明する「スティール文書」など根拠のない外部からの資料に全面依存して、FBI独自の情報や資料はまったく取得していなかった。

▽FBI自体も、その後の司法省の監察総監による2度の内部調査と、「ロシア疑惑」全体の捜査にあたったロバート・モラー特別検察官による「共謀の証拠なし」という結論を受け、捜査の欠陥を認めて、人事異動や組織変更という対応措置を取った。

 以上の総括の意義について、共和党寄りの識者たちは一斉に、FBIが象徴する司法当局全体への激烈な告発となり、一般米国民が司法機関に向ける信頼を大きく崩すだろう、と指摘した。そうした波紋は、これから本格的に展開する2024年11月の次期大統領選挙を含む米国政治の動向に複雑かつ重大な影響を与えるだろうという予測も浮上してきた。

「捜査の客観性と法律への誠実さに欠けた」と批判

 トランプ政権が2017年1月に発足すると、「ロシア疑惑」は国政の場で急速に広まった。民主党側と民主党に傾斜する大手メディアのニューヨーク・タイムズ、さらにFBIなどの捜査機関までがその疑惑を重視し、実際に犯罪事実があるかのような厳しい追及を始めた。トランプ陣営は当初からその非難を全面否定し、根拠のないフェイクニュース(虚偽報道)であり、「魔女狩り」だと反論していた。

 しかし疑惑追及の勢いは増し、民主党側の圧力に押される形でトランプ政権下の司法省は17年5月、この疑惑を集中的に捜査する特別検察官にモラー検事を任命した。以来、モラー特別検察官とその配下の特別検察班は2年近く、集中的な捜査を進めた。だがモラー特別検察官は19年3月、「疑惑を裏づける証拠はなかった」とする結論を発表し、捜査を打ち切った。