北朝鮮が5月5日、金正恩立ち会いの下で発射したロケット(写真:KCNA/UPI/アフロ)
北朝鮮が5月5日、金正恩立ち会いの下で発射したロケット(写真:KCNA/UPI/アフロ)

 新たに間接選挙制の大統領として国家を代表する国務委員会委員長に就任した金正恩は、4月12日に最高人民会議第14期第1回会議の2日目で、施政演説を行った。同じく間接選挙制の大統領としての主席であった金日成が1990年5月24日に最高人民会議第9期第1回会議で語った施政演説以来であるから29年ぶりである。おそらく2月末の米朝首脳会談を成功させ米国を訪問する準備であったはずの大統領制移行と、その成果を発表するための施政演説だったのであろう。

 しかし、施政演説で金正恩が語ったのは怒りに満ちた米国批判であった。「最近、我が核戦力の急速な発展の現実から自分たちの本土の安全に恐れをなした米国は会談の場に出てきて、一方では関係の改善と平和という風呂敷包みをいじり、他方では必死に経済制裁に執着しながら、なんとしても我々が進む道を逆戻りさせ、先武装解除、後体制転覆の野望を実現する条件を整えようと非常に躍起になっている」

 2月末の米朝首脳会談については「去る2月、ハノイで行われた第2回朝米首脳会談は『我々が戦略的決断と大勇断を下して踏み出した歩みが果たして正しかったのか』という強い疑問を抱かせ、『朝米関係を真に改善するとの考えを米国は本当に持っているのか』という警戒心を我々に抱かせる契機となった」と語り、失敗を認めている。

 そのため第3回米朝首脳会談の開催にも否定的である。金正恩は「我々ももちろん、対話と協商を通じた問題の解決を重視するが、一方的に自分の要求だけを押し付けようとする米国式対話法は体質的に合わず、興味もない…米国が第3回朝米首脳会談の開催についていろいろと言っているが、我々はハノイ朝米首脳会談のような首脳会談が再現されることはうれしくもないし、行う意欲もない」と語っている。

米国との首脳会談への未練

 一方で、米朝首脳会談への未練もある。金正恩は「私とトランプ大統領との個人的関係は両国間の関係のように敵対的ではなく、我々は相変わらず立派な関係を維持している。思いつけばいつでも互いに安否を問う手紙をやり取りすることができる…米国が正しい姿勢をもって我々と共有できる方法論を探した条件で第3回朝米首脳会談をするなら、我々としてももう一度ぐらいは行ってみる用意がある…とにかく、今年の末までは忍耐力を持って米国の勇断を待ってみるが、この前のように良い機会を再び得るのは確かに難しいであろう」と語っている。

 基本的には、米国との協議に失望していて協議再開に消極的であるが、やはり未練を捨てきれないといったところであろうか。そこで、米国は批判するが、米大統領ドナルド・トランプとの関係は維持するという一見矛盾した施政演説になったのであろう。

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