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 なお、アブー・シュレイフは地元では空手の師範として有名であった。彼のフェイスブックのアカウントにある投稿をみると、IS関連と並んで、空手の画像が数多く見られる(現在、このアカウントは凍結されている)。今述べたとおり、フェイスブックへの投稿は、ISがらみが多く、死ぬ直前まで頻繁に投稿している。興味深いのは、シーア派に対する批判が多いことだ。スリランカでは仏教過激派によるヒンドゥー教やイスラームへのヘイトがあったことが知られているが、彼の怒りの矛先はもっぱら同じイスラームのなかのシーア派に向けられていたことになる。

 これは、ISも共通に持つ特徴だ。そして、実はスリランカでは、9.11事件後の新たな現象として指摘されてきた(ただし、攻撃対象はシーア派だけでなく、スーフィー=イスラーム神秘主義者=もであった)。つまり、スリランカ人の過激なムスリムがISやIS的なイデオロギーに引かれる流れはすでにできていたということである。

テロ組織にはイデオロギーを構築し、戦略を練る知的活動が必須

 今回の事件でもう一つ興味深かったのは、実行犯たちの多くが裕福で高学歴であったというスリランカ側の発表に対し日本のメディアが強く反応したことであった。

 筆者のところに、なぜ裕福で高学歴な若者がテロリストになるのかという問い合わせが数多くあった。この種の質問にはいいかげん辟易(へきえき)していたので、かなり意地悪な対応をしてしまったかもしれない。2016年7月にバングラデシュで発生したテロ事件(日本人が7人犠牲になった)でも、実行犯たちが裕福な高学歴の若者だったことを持ち出し、なぜテロリストが貧困層出身だと考えるのか、逆に問いただすなどしてしまった。

 スリランカに話をしぼっても、今回の実行犯たちだけが高学歴だったわけではない。2016年にスリランカ司法相が議会で、32人のスリランカ人がISに参加していたと証言したときも、その大半が高学歴のエリートであったと指摘していた。そして、死亡したアブー・シュレイフも留学経験者であり、幸せな家族ももっていたではないか。

 実はこれ自体は驚くべきことではない。そもそも、ISの源流の一つであるアルカイダの創設者は中東有数の大富豪の御曹司であり、現在の指導者は名家出身の医者である。また、ISの指導者も博士号を有している。これは、ジハード主義組織の黎明(れいめい)期から続く基本的な構造と考えるべきだ。しかも、イスラームだけでなく、日本の仏教系テロ組織といえるオウム真理教の場合でも、また世俗的な日本赤軍などでも見られる、かなり普遍的な特徴といえよう。

 貧困層が自分の属する社会や体制に腹を立てテロリストになるというケースは、いかにもありそうに見えるし、もちろんあるのだろうが、テロリストの多くがそうだと考えるのは発想としてナイーブすぎる。テロ組織の場合、社会や政治に不満や怒りをもったエリートや富裕層が、彼らなりの理想の体制を打ち立てるために、イデオロギーを構築し、戦略を練り、戦術を編み出すという知的な営みが少なくない。そのそれぞれをさらに高みに昇華させていくためにも、高学歴メンバーの参画が必要になっていくのだ。

 例外はあるものの、貧困層、あるいは中流以下の出身者がテロ組織に多数流入するのは、ある程度組織やイデオロギーが拡大・確立してからと考えるのがふつうではないだろうか。テロと貧困を無批判に結びつけるのは、テロの本質を見誤る可能性がある。たしかに、貧困対策はテロを封じ込める重要な施策であろう。だが、残念ながら、それだけでは不十分なのである。