サウジアラビアのムハンマド皇太子は、バイデン政権の中東外交にどう対応するのか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ジョー・バイデン米大統領は4月末で就任から100日を迎えた。この間、新型コロナウイルス対策や経済政策や環境政策など随所で「らしさ」を見せてきたが、外交も例外ではなかった。特に中東においては、トランプ政権との違いを際立たせており、中東諸国もその対応のため、試行錯誤しているようにみえる。もちろん、中東地域の変化には内在的な要因も関係しているのだが、バイデン政権の中東政策が域内再編のドライビングフォースとして機能している点も見逃してはならないだろう。

 トランプ大統領が離脱した包括的共同行動計画(イラン核合意、JCPOA)への復帰は、バイデン政権の公約でもあったので、この域内再編の中心となるのは当然、イランであった。イラン核合意の当事国は4月6日以降、断続的にオーストリアのウィーンでイランとイラン核合意再建に向け協議し、イラン核合意を離脱した米国は直接協議には加わらず、別の場所で待機し、間接的に参加している。

 一連の会合で、イランやロシアからは「協議がポジティブに進んで、合意ができつつある」との発言が出てきているが、欧州・米国からは慎重な意見が出ている。米国もイランも互いに相手が先に動くべきだと主張しており、なかなか折り合いがつかない。このあたりは腹の探り合いという感じであろう。

 しかも、6月に予定されているイラン大統領選挙では保守派の勝利が予想されており、そうなればイランの態度が硬化するだろう。さらに、穏健派で知米派のザリーフ外相(以下、ザリフ外相)が、イランのイスラーム革命防衛隊(以下、イラン革命防衛隊)を批判する音声が流出し、同外相が謝罪に追い込まれるなど不確定要素が顕在化した。これらがイラン核合意の行く末に影響を及ぼす可能性は否定できない。

対立続けてきたサウジとイランが直接協議

 一方、イランを巡っては、対立するサウジアラビアの動きからも目が離せない。例えば、サウジアラビアとイラン政府の高官が4月9日、イラクの首都バグダード(以下、バグダッド)で関係改善のため直接協議したとの報道があった。仲介役とされたイラクは大統領自らがこの件をコンファームしている。イラン外務省も当初「矛盾がある」としていたが、5月10日、ハティーブザーデ外務報道官は、協議の結果について見守っており、交渉の詳細について話すのはまだ早いと語った。さらにその数日後にはザリフ外相もサウジアラビアと協議を行ったことを認めた。

 一方、サウジアラビアはバグダッドでのイランとの協議について今にいたるまでほとんど(まったく?)報じていない。かといって、イランとの関係改善に無関心なわけではない。4月27日にはサウジアラビアの最高実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MbS)がサウジメディアとのインタビューで「イランは結局のところ隣国であり、われわれが求めているのはイランと非常に良好な関係ができることだ。われわれはイランの状況が困難になるのを望んでいない。逆にイランには発展してもらいたい。われわれがイランに利益を有すれば、イランもサウジアラビアに利益を有することになる。そうすれば、域内だけでなく、世界にも発展と繁栄がもたらされる」と発言している。

 この発言を、多くのメディアが、サウジアラビアのイランに対するスタンスが変化したものと解釈した。実際、上述のイランの外務報道官は「トーンの変化」があるとして、「建設的な観点と対話に基づくアプローチで、イランとサウジアラビアは域内の平和と安定を達成すべく、交流と協力という新たな章に入ることができる」と指摘したのである。

 確かに2017年にはムハンマド皇太子は、イランのハーメネイー最高指導者(以下、ハメネイ師)を「中東の新しいヒトラー」と呼び、翌年にもハメネイ師とヒトラーを結びつける発言をしている。これに比べると、確かにトーンが変わったといえるだろう。

続きを読む 2/3 米国の新たな中東政策がサウジを動かした

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