全4147文字

中国側の事情として、10月の国慶節を迎える前に決着させたいでしょうね。今年は建国70周年。10月が近づくにつれナショナリズムが高まり、習政権は米国と妥協しづらくなることが考えられます。

前嶋:おっしゃる通りですね。

 妥協の仕方としては、「中国の農業市場を一層開放する」など、トランプ大統領が「中国から勝ち取った」と支持者にアピールできるテーマで合意するのでしょう。この時、米中対立の根幹をなすテーマに触れることはないでしょう。米国が非難するサイバー攻撃とか、国営企業への補助金の支給などですね。こうした問題は引き続き残ることになります。

 米中が妥協するのに長い時間がかかる可能性がある理由の第1は、まさにこの点です。根幹の問題を解決するのは容易ではありません。加えて、中国の中が一枚岩ではないため、国内のコンセンサス作りに時間がかかることが考えられます。

中国の劉鶴副首相が米国との間でまとめた協定文に対して、中国共産党の保守派が集中砲火を浴びせたため、同氏は見直しを米国に要請せざるを得なくなった、との報道があります。

前嶋:そうした人々を説得するのは容易なことではありません。

日米協議は難題先送りも

5月5日から始まった一連のばたばたは、日米の貿易協議にどのような影響を及ぼすでしょう。

前嶋:中国経由で米国に製品を輸出している日本企業には、米中のごたごたが直撃します。日本の株価への影響も懸念されます。ただ、日米政府間の貿易協議に関しては、日本にとってラッキーな状況に進むのではないでしょうか。交渉窓口である米通商代表部(USTR)は引き続き対中交渉にマンパワーを割かなければなりません。

 私は日米はすでに大筋で合意に達していると見ています。農産物の関税は最大でTPP(環太平洋経済連携協定)並み、防衛装備品をたくさん購入する――。輸入自動車に対する25%の関税は飛んだようですね。4月の半ばに茂木敏充経済財政・再生相と、ライトハイザーUSTR代表がTAG(物品貿易協定)を巡る最初の交渉をしました(関連記事「TPP11の旗振った日本、対米交渉で加盟国の利益を守れるか」)。あの時にライトハイザー氏が満面の笑みを浮かべていました。

 ただし、米国は日本にのませることができなかった要求項目も残しているでしょう。マンパワーに余裕があれば、今後、協議の俎上(そじょう)に乗るかもしれないこうした要求を日本は避けることができるという意味です。こうした要求は往々にして、日本の立場からは“無理難題”と見えるものです。例えば、自動車の数量規制などですね。

中国との東シナ海共同開発の再開も

米中関係が暗礁に乗り上げているこのタイミングは、日本にとっては必ずしも悪いことではありません。おかげで日中関係は良好になりました。これを生かす施策にはどんなものが考えられるでしょう。

 例えば、2008年6月に『日中間の東シナ海における共同開発についての了解』*2がなされました。中国国内で批判が巻き起こり、中断が続いています。これに改めて取り組むなどの提案はできるものでしょうか。


*2:日本と中国は、東シナ海におけるEEZ(排他的経済水域)の境界を画定できてない。日本は中間線を境界とするよう主張している。中国がEEZ中間線の中国側で開発を始めたガス田を巡って、日本側は「地下で日本側の資源を吸い取っている」と主張している。これを受けて、日中は、中間線の中国側に共同開発地域を設けることで合意した

前嶋:あり得ると思います。

 加えて、米国におけるビジネスチャンスも広がるのではないでしょうか。トランプ大統領が公約しているインフラ整備において、日本の資本と技術力が生きる場面が想定されます。例えば都市部の地下鉄網。ワシントンの地下鉄の一部は川崎重工業が開発した車両を導入してピカピカになりました。こうした取り組みを他の都市の地下鉄やコミュータートレインに広げていく。道路や橋の建設もビジネスチャンスと言えるでしょう。