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米経済に自信を持つトランプ氏

 加えて、「今」だからこその理由もあります。米経済が好調であることです。4月の失業率は3.6%と、1969年以来49年ぶりの水準に改善しました。

2019年1~3月期のGDP(国内総生産)伸び率は3.2%で、18年10~12月期の2.2%を上回りました。

前嶋:そうですね。米国民は経済の状況を失業率と株価、そしてガソリン価格で感じる傾向があります。株価は、四半期ごとに送られてくる確定拠出年金のステートメントに掲載される数字を見て実感します。ご存じの通り昨年末から株価は上昇基調にあります。

 ガソリン価格はイランへの制裁の影響がどれほどか不透明な面がありますが、「今なら中国と貿易問題で多少のむちゃをしても経済にもたらす影響を吸収できる」とトランプ大統領は判断したのでしょう。

 トランプ大統領は国内の2つのグループをにらんで対中政策を進めています。1つは、中国とのビジネスから恩恵を受けているグループ。ウォールストリートが典型です。彼らは、対中協議を早くまとめてほしいと考えている。もう1つは、安全保障を重視するグループ。バノン氏はその筆頭です。「中国は米国から知的財産を盗み取り、それを国家資本主義の仕組みを通じて軍の強化に結びつけている」と考える人々です。

 後者のグループの考えを、米国以外の国の人々に説明するのは難しいところがあります。しかし、厳然として力を持っています。

以前のインタビューで、トランプ大統領は「2020年の再選にプラスかマイナスか」を基準に行動を決めているとご説明いただきました(関連記事「米選挙が示す『トランプ的なるもの』の新常態化」)。中国からの輸入2000億ドルへの関税率を25%に引き上げる決断も、再選にプラスと判断したからでしょうか。

前嶋:そう考えます。「安価な製品を米国に売りつけて、米国民の雇用を危うくする中国」に強く出る姿勢は、支持者に強くアピールします。

 加えて、人権を重視するグループからの支持を高めることもできます。チベットやウイグルに住む少数民族に対する弾圧を問題視する人々がいますから。さらに、信教の自由を重視するグループにも訴えるものがあります。チベットやウイグルで中国は信教の自由を奪っているとされているからです。この面では、キリスト教福音派から強い支持を集めているマイク・ペンス副大統領が大きな役割を果たしています。

 以上のように、中国問題は次期大統領選挙をにらんで、様々な政策で容易に利用できるテーマなのです。

米民主党の予備選が本格化する前に決着も

今後の展開についてお伺いします。いつ、どんな落としどころが想定されるでしょう。

前嶋:短期でまとまる可能性と長期化する可能性の両方が考えられると思います。

 短期の可能性は今後のスケジュールをにらんだものです。今後予定されている大きなイベントがいくつかある。

 第1として、2020年の次期大統領選をにらんだ民主党の予備選がこの夏には佳境を迎えます。大票田であるカリフォルニア州が2020年3月に前倒しすることを決めたため*1、来春には大勢が決するからです。メディアの話題はこれにさらわれるでしょう。民主党予備選が進む過程で、「トランプ政権では中国とうまくやっていけない」という批判が沸き起こる可能性があります。なので、中国と話をまとめるなら、そうなる前のほうが好ましい。

*1:従来は6月に実施していた。2020年は3月のスーパーチューズデーに実施する予定

 第2は景気です。先ほど申し上げたように米国経済は現在絶好調にあり、株価は上昇基調にあります。ゆえにトランプ大統領は中国に対して強く出ることができる。株価が下落基調に変わると、今はトランプ大統領を支持している世論が背を向けかねません。景気の山がこれまでになく長く続いています。これがいつまで続くかは予断を許しません。