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トランプ大統領が、中国からの輸入2000億ドル分に課す関税を25%に引き上げた。今後、妥協に進む可能性はあるのか。米国の現代政治外交を専門とする上智大学の前嶋和弘教授は米景気と、2020年の大統領選挙に向けた米民主党の予備選の動向がカギを握ると見る。

(聞き手 森 永輔)

民主党幹部も対中強硬姿勢ではトランプ大統領と歩調を合わせる。左はペロシ下院議長、右はシューマー上院院内総務(写真=ロイター/アフロ)

「中国からの輸入2000億ドル分に課している関税を10%から25%に引き上げる」。ドナルド・トランプ米大統領が5月5日にツイートしたのを契機に米中貿易協議の様相が一変しました。米国は5月10日、この方針を実行に移しました。一連の動きの中で、前嶋さんはどこに注目しますか。

前嶋:トランプ大統領がツイートするまで、「協議はうまくいっているようだ」と見られていました。しかし、これは本当だったのでしょうか。

前嶋和弘(まえしま・かずひろ)
上智大学総合グローバル学部教授。専門は米国の現代政治。中でも選挙、議会、メディアを主な研究対象にし、国内政治と外交の政策形成上の影響を検証している(写真=加藤 康)

 実は米国の知識人の間では、「中国に対して強い態度で臨むべきだ」という意見が保守とリベラルを問わず強くなっていました。

 例えば、トランプ政権で首席戦略官・上級顧問を務めたスティーブ・バノン氏が「直面する危機に対する委員会:中国(the Committee on the Present Danger: China)」という団体を最近、立ち上げています。「中国に強い姿勢で対峙せよ」と主張する団体です。実はこの名称にはいわくがあります。かつて、米ソ冷戦期にも対ソ強硬路線を主張する同じ名称の団体が立ち上げられましたし、9.11同時多発テロが起きた後にも、これに対すべく同じ名称の団体が立ち上げられました。つまり、右派の知識人が冷戦シフトしていることを示す現象なのです。

 リベラル派でも、中国たたきに関してコンセンサスが出来上がっています。チャック・シューマー民主党上院院内総務は中国に対し「タフに行け」と発言しています。ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)も中国問題に関してはトランプ大統領を応援している。両氏はトランプ政権のやることなすことほとんどすべてを批判しているので、これは極めて例外的なことです。

 つまり、米インテリたちの考えの底流を考えると、トランプ発言は「様相を一変した」との印象がある半面、起こるべくして起こった面があるのです。