中国の「マスク外交」に過剰に反応する必要はない。しかし現在の状況下では、こういう支援物資に余裕ができ始めているのが中国だけであることも事実だ。中国が自己を誇ることなく人道主義の観点から誠実に支援を続ければ、中国のイメージは自然に良くなり、影響力も増す。だが、そのためには口先だけではなく本当にそう思い、その気持ちが行動ににじみ出ることが不可欠だ。上からの指示でやったり、形式主義に陥っていたりしては、そのような気持ちが相手に伝わることはないだろう。

 新型コロナウイルスを完全に抑え込んで勝利宣言をすることの難しさは既に触れた。ましてや中国の制度の勝利だと誇ることも難しくなった。韓国や台湾もほぼ抑え込んだ。日本も比較的上手に抑え込むことができれば、なんと言うことはない、東アジアは成功し、欧米がつまずいたという構図になり、制度の違いではないことになる。

経済回復のため、米中関係の改善にかじ

 中国は新たな「作戦計画」のフェーズに入ったと見るべきだろう。それは国内において新型コロナウイルスの第2波を必死で防ぎつつ、経済復興を最大の眼目とするものとなるはずである。経済こそが国民の支持と社会の安定に直結する喫緊の課題だからだ。世界経済の低迷が長期化すると予想される中で、国内の投資と消費、中でも消費に頼りながら経済の落ち込みを回避し、プラス成長に戻すこと自体、相当の努力を必要とする。特に民営企業、なかんずく、中小企業の全面的なてこ入れが急務となっている。これまで最も、なおざなりにされてきた領域であり、容易ではない。ここに全力を注入するであろう。

 中国も、米国との厳しい、根本的な対立関係に入ったことは自覚している。トランプ政権の遠慮のない中国たたきは、これからも続く。ここで一々反発し、いがみ合っていれば、小休止さえできなくなる。これでは国内の経済復興に必要な対外関係の整備はできない。中国は心して米国との関係の調整に動くであろう。ドナルド・トランプ大統領が貿易問題に話題を移したのを捉えて、その調整を始めたように見受けられる。

 これは戦術的転換であって、中国が米国を抜くという宿願は不変だと見ておいた方が無難だ。米国への対抗意識を捨てない中国と共存する気は、米国にはない。だからといって中国が妥協して米国の圧力に屈する兆しもない。出口のない対立状況にある事実に変わりはない。

「米国を抜く」という宿願を中国はいつまで堅できるか

 コロナ後、欧米における“脱中国”の流れは強まると見る向きもあれば、市場としての中国の魅力は倍加し、さらにひきつけられると見る向きもある。安全保障や次世代産業の勃興に直接関係する分野における中国との関わりは縮小するであろう。それ以外の分野については、まだ先は見えておらず、厳しいせめぎ合いが続く。それぞれの国が、それにどこまで耐えられるかが、これからを決める最重要のファクターとなろう。

 中国の一つ一つの「作戦計画」が、例えば米国との関係をさらに悪化させ、今度は2050年に総合力で米国を抜くという中国の長期戦略のよって立つ基礎、つまり経済や科学技術の計画達成に影響を及ぼし、修正を迫る場面も出てくる。米国を抜くという宿願に基づく現在の戦略を中国はいつまで堅持し続けることができるのであろうか。堅持すればするほど欧米と中国の距離は広がり、関係は敵対的なものとなっていく。そのことが中国の勝利のシナリオにも暗い影を投げかけ、その実現は遠のく。中国は、基本戦略の見直しを考えるべき時期に来ている。

 米国も中国を抑え込む国策が成功する保証はない。ある意味で消耗戦なのだ。民主主義の方が消耗戦には脆弱だ。どこまで国民の気持ちを萎えさせずに戦い続けることができるのか。選挙に明け暮れる米国の課題も決して小さくはない。

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