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一帯一路構想は需要の開拓

GDPの発表と時期を同じくして、一帯一路首脳会議が開かれました。注目すべき動きはありましたか。

瀬口:特に新しい動きはありませんでした。

 中国は、一帯一路構想は「中国の覇権を築くツール」との誤解を解く努力をしていくでしょう。遠い将来はともかく、現時点において覇権を確立するには力が足りません。

 中国にとって一帯一路構想は、10~20年後の将来に国内需要が不足するのを見越した市場掘り起こし策なのです。内需の一層の拡大は期待できません。都市化やインフラ投資といった成長ドライバーは飽和点に達します。その一方で少子高齢化が進行する。成長率は今の6%台から3~5%台に低下するでしょう。これは共産党の求心力を衰えさせ、政治改革の必要性を高めます。政治改革が順調に進めば、20年代の後半には政権交代が起こるかもしれません。しかし、この可能性は非常に低いでしょう。政治改革には相当に長い時間が必要です。しかも、経済が安定している環境で進めなければならない。

中国は投資先となる国を借金漬けにして港湾などの権利を奪い取る算段をしている、という見方があります。まさに覇権を確立するためのツールというわけですね。スリランカがハンバントタ港の運営権を99年間、中国企業に貸し出すことになった事例が注目されています。

瀬口:私は、中国は皆さんが思うほどクレバー(賢明)ではないと思います。スリランカの事例は、まさに経験不足のなせる業です。だからこそ、米国やその他の国に不信感を抱かせるようなやり方になってしまった。

 最近、欧州でイタリアと一帯一路関連文書に調印しました。あれも、決してうまいやり方ではありません。イタリアの現政権は欧州統合に非協力的なため、直後にパリで行われた会談では、欧州統合強化を目指すドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領は苦虫をかみつぶしたような表情をしていました。

「TPP加盟のハードルは高くない」

中国が内需不足を補い、安定した経済成長を続けたいのであれば、覇権の疑いをかけられるような一帯一路構想ではなく、TPP(環太平洋経済連携協定)に加盟する方が安全かつ確実ではありませんか。

瀬口:おっしゃる通りです。なので、中国でも最近、TPPへの加盟を検討する動きがあり、「そのハードルは高くはない」との認識が広がっています。その日が来る可能性が徐々に高まっている。

 TPP加盟を考える際に最大のハードルは国有企業に対する優遇策の存在でした。しかし、この点はベトナムやマレーシア、シンガポールの加盟を促すために加盟条件がだいぶ緩められました。これらの国が加盟できるなら中国も加盟できるというわけです。政権内のある人物は「上層部が判断しさえすれば、国内の抵抗はさほど強くないのではないか」と話していました。

 問題はむしろ日本にあるのかもしれません。米国が加盟していないTPPに、中国が加盟するのを認めるのかどうか。中国が加盟すれば、欧州諸国も加盟を求めるでしょう。日本が主導して“米国包囲網”を築いていると受け取られかねません。対米関係において配慮が必要になるでしょう。

 TPPはもともと、米国が主導して作った、自由貿易を守るための仕組みです。それを米国が勝手に離脱したのですが。

 もし、中国や欧州諸国の加盟検討が進み、米国がTPP加盟を拒否し続けるようなことがあれば、日本はどうするのか。米国から自立して自由貿易を推進するという理念を貫けるのか、それとも、米国の腰巾着となって節を曲げるのか。日本は踏み絵を迫られることになるかもしれません。この時は全世界が日本に注目することでしょう。

 今年は習近平国家主席の訪日が予定されています。この時の目玉として、中国のTPP加盟と日本のAIIB(アジアインフラ投資銀行)加入が議題になることに期待したいと思います。加えて、東シナ海における日中共同開発の再開が注目されます。