中国経済ウオッチャーの瀬口清之氏は4月、その実態を見るため中国の大連、北京、上海の3都市を巡った。その間に、2019年1~3月期のGDP成長率の発表と、一帯一路首脳会議が行われた。これらの評価について聞く。中国経済は2019年通期で6.3~6.4%の成長が期待できそうだ。一帯一路構想と並行して、TPPへの加盟を検討する動きも出始めている。(聞き手 森 永輔)

4月26日に開かれた一帯一路首脳会議にはロシアのプーチン大統領も出席した(最前列左)。最前列右は中国の習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
4月26日に開かれた一帯一路首脳会議にはロシアのプーチン大統領も出席した(最前列左)。最前列右は中国の習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

中国の2019年1~3月期のGDP(国内総生産)成長率が前年同期比6.4%に達しました。

瀬口:これは、事前の予想を上回る値でした。中国政府は6%を割り込むのではないかと懸念していましたから。

 ただし、将来の需要を先食いする特殊要因があったので、これを差し引いて見る必要があります。特殊要因とは増値税(日本の消費税に相当)の減税です。16%だった税率が4月1日から13%に引き下げられました。李克強首相が3月15日の記者会見でこれを発表すると、業者はみな仕入れの拡大に走りました。納める税額が少なくて済むからです。

 100円で仕入れた商品を200円で売るケースを考えましょう。3月中に仕入れれば、仕入れ値100円にかかる増値税は16円。これを4月に200円で売れば売値にかかる増値税は26円です。したがって10円(26円-16円)を納めればよい。4月に仕入れると、仕入れ値と売値にかかる増値税はそれぞれ13円と26円なので13円(26円-13円)を納めなければなりません。

 この減税に伴う特需がGDPを0.1~0.2%押し上げたとみられています。

輸入が4.3%減でGDP拡大に貢献

<span class="fontBold">瀬口 清之(せぐち・きよゆき)</span><br />キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹<br>1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)
瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

GDPの伸び率を左右する要素として、ほかに純輸出(輸出-輸入)と投資、個人消費があります。それぞれ、どのような動きをしたのでしょう。

瀬口:19年1~3月期は純輸出が拡大し、GDPの伸びにプラスの貢献をしました。ただし、これは輸出の伸びが失速する中で、輸入の伸びがマイナスに転じたことが原因です。輸出の伸びは18年10~12月期の4.4%から19年1~3月期は1.0%に低下。輸入の伸びは18年10~12月期が4.8%、19年1~3月が▲4.3%でした。

 輸出が縮小したのは、米国向けが、本年初からの関税引き上げを予想して18年後半に駆け込み輸出が増加した反動で減少したのが原因です。一方、輸入が減ったのは中国の内需の縮小が原因。自動車の販売が不振だったことから、生産が落ち、部品の輸入が減少しました。スマホでも同様のことが起きています。加えて、ロボットの導入においてストック調整が起きました。生産の合理化を進めるべく17年にロボットの輸入が大きく伸長。この反動です。

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