今年9月のドイツ連邦議会選挙は、この国の歴史において大きな節目となる。約16年間続いたメルケル政権が終わるからだ。アンゲラ・メルケル首相の後継者をめぐるレースを、緑の党のアンナレーナ・ベーアボック共同党首とキリスト教民主同盟(CDU)のアルミン・ラシェット党首が争っている。

ドイツ緑の党の首相候補に指名されたアンナレーナ・ベーアボック氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
ドイツ緑の党の首相候補に指名されたアンナレーナ・ベーアボック氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 これらの2党のうち、上昇気流に乗っているのは緑の党だ。同党は4月19日、ベーアボック共同党首(40歳)をドイツ連邦議会選挙での首相候補に指名した。同氏はオンライン会見で「ドイツは大きな潜在力を持っている。その力を解き放つために変革が必要だ。我々が何もしなかったら、未来は良くならない。未来を変えられるかどうかは、私たち自身の手に委ねられている。私は、そのために首相候補として戦う」と党員たちに訴えた。同氏の演説には、熱意と力が込められていた。

 旧西ドイツ・ハノーバー生まれのベーアボック氏は、ハンブルク大学で政治学と法学を学んだ後、2004年から2年間ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに留学。2005年に緑の党に入党し、同年から2008年まで、欧州議会のエリザベート・シュレーダー議員(緑の党)の事務所のリーダーを務めた。2009年から2012年まで欧州緑の党の役員会にも属した。英語を流ちょうに話すベーアボック氏は、緑の党きっての国際派でもある。

 多くの日本人は緑の党について「過激な環境保護団体に近い左翼政党」というイメージを抱いているかもしれない。だが同党はこの国では、そうしたイメージをとっくに払拭して、押しも押されもせぬ中堅政党になっている。16の州のうち、11の州政府で連立政権に参加している。バーデン・ビュルテンベルク州では緑の党の党員がすでに10年間も首相を務めている。べーアボック氏も、急進的な左派勢力ではなく、「実務派」として知られる。

 緑の党が1980年に「既成政党を壊すアンチテーゼとしての党」というスローガンを掲げ、反原発、反核兵器、自然保護運動、男女同権運動など様々な勢力の「ごった煮」として結成され、他の党ほど統率がとれていなかったことを考えると、今日の緑の党には進歩と成熟を感じる。

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 ベーアボック共同党首は2009年に緑の党ブランデンブルク州支部の共同支部長に選ばれた後、2013年に連邦議会選挙に初当選。2017年まで議員団で気候変動問題に関する責任者を務めた。

 同氏は、2018年の党代議員集会で、ロベルト・ハベック(シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州政府の元環境大臣)氏とともに共同党首に選ばれた。2019年の欧州議会選挙では、地球温暖化問題を他党よりも熱心に取り上げることによって、得票率を前回(2014年)の10.7%から約2倍の20.5%に増やす快挙を成し遂げた。分刻みのスケジュールをこなす傍ら、6歳と10歳の娘を育てている。

 ベーアボック共同党首は、首相候補に指名された後の演説の中で、今回の選挙戦でも地球温暖化問題を最も重視することを明らかにした。同氏は「気候変動に歯止めをかけることは、私の世代の最大の任務だ。したがって私は新政権に参加した場合、あらゆる分野で、パリ協定の目標(地球の平均気温の上昇幅を工業化以前に比べて2度未満にする、可能ならば1.5度に抑える)の達成を最優先にする。そのために、我々は生活や経済を変えるための勇気を持たなくてはならない」と語っている。

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