3つの条件とは何ですか。
瀬口:検温、登録、グリーンコードです。オフィスや工場内に入るときには、人々は常に非接触型の体温計で検温されます。外部からオフィスを訪れる人はもちろん、いつもオフィスに通う人も同様です。さらに言うと、買い物でスーパーを訪れるときも、自宅のマンションに戻るときも入り口で検温を済まさなければ中に入れません。
登録とは、身分証明書番号と携帯電話番号の記録が義務付けられていることです。これらの情報に加えて、第3の条件であるグリーンコードを見せないと、検温をパスしてもオフィスにもスーパーにも、そして自宅にも入れないのです。グリーンコードというのは、各人の健康状態などをITを活用して管理するシステム。スマホ画面に氏名とともに表示されるQRコードが「緑」ならば安全であることを示します。検温で平熱の範囲を超えた、居住する省市以外の他省市から入った、海外から帰国した、2週間の隔離を終えたなどの記録を基に「緑」であるか否かを判定する仕組みです。
消費も様子見の部分がまだ残っています。レストランなどの飲食業は、3月中旬以降営業を再開していますが、4月下旬になっても、以前のように満席になるお店はほとんどありません。やはり、引き続き2次感染を警戒する傾向は残っています。5月初旬の労働節の連休でも、人と人との距離が確保できない密集が大規模に生じないようにするための政府からの指導が出されていることや人々自身が感染リスクへの警戒心を解いていないこともあって、旅行関連のサービス産業も回復が遅れています。
今の流れを基に、2020年通期の動向をどう見ますか。
瀬口:1~3月期が6.8%減の後、4~6月期は2~3%増で、上期は2%減前後といったところ。下期の成長率は6%程度。欧米諸国の回復は夏場以降にずれ込むと見られるため、中国が下期の世界経済を引っ張る存在になると予想されます。
以上を総合すると通年の成長率は2%程度――というのが中国エコノミストの平均的な見通しです。
新型インフラ建設「新基建」に民間主導で投資
今後の見通しを、外需と消費、投資にブレイクダウンして見てみましょう。中国の経済はこれまで、この3要素をけん引役とする「3頭立ての馬車」と例えられてきました。
まず、外需は期待できません。
米国も欧州も輸入を増やす状況にはなさそうですね。
瀬口:消費は、サービス分野の戻りが鈍いでしょう。内訳は、良い分野が半分、不振が続く分野が半分だと考えます。不振が続くのは飲食、スポーツ、映画、旅行など。良い分野は電子商取引やフードデリバリーです。
感染危機がもたらす影響を如実に表す傾向ですね。人が集まるサービスは厳しいが、家での暮らしを充実させるサービスは需要がある。
瀬口:そうですね。そういう意味では、家電の分野で空気清浄機、調理器具、アイロンなどがよく売れているそうです。
投資は、政府による景気刺激策もありフルの状態になります。注目すべきはその内容。従来型インフラ向けの公共投資に加えて、新型インフラ向けに力を入れる姿勢を示しています。従来型インフラというのは高速鉄道、高速道路、港湾設備、都市開発――。住宅投資も悪くありません。いずれも雇用を吸収するのに重要です。
新型インフラ建設「新基建」は次世代通信システム5G、データセンター、AI(人工知能)、産業用インターネット、超高圧送電網、都市間高速鉄道と大都市周辺の普通列車網、新エネルギー自動車充電施設の7分野が対象。いずれもIT(情報通信)化とAI導入、デジタル化をさらに進めるためのまさに基盤となる分野です。
中国全体の投資額のうちインフラ建設投資が約3割を占めます。そのうち9割弱が従来型インフラ投資。10~15%が新型インフラ投資です。
投資の方法も要注目です。これまでのような政府主導の公共投資や国有企業を通じたインフラ投資だけでなく、民間企業主導によるインフラ投資を促すための補助金を増大させているのです。
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