瀬口:そうとばかりは言えません。まず、この表現は「両岸関係の平和的解決」が目的語になっています。中国に対して一方的に何かを求めるものではありません。

 加えて、この表現は、台湾への姿勢を示すために中国自身がもともと使ってきたものに基づいています。よって、「台湾に対する中国の姿勢を」尊重し、さらに促す、と解釈することもできます。「日本が台湾問題に干渉する」という意味ではなく、ですね。

今年3月に開かれた全人代(全国人民代表大会、日本の国会に相当)の政府活動報告でも李克強(リー・クォーチャン)首相が「両岸関係の平和的発展を推進する」という表現を使っていますね。

瀬口:こうした表現を選んだ日本の配慮を中国が理解したのだと考えられます。

 もちろん中国政府は日本の対中姿勢に反発していないとは言えません。日米外務・防衛担当閣僚協議(2+2)後の共同発表、今回の共同声明と、2連発の名指し批判ですから(関連記事「日本にTPP拡大作戦の好機、太平洋+米中欧の4極に」)。しかし、中国現地の日本企業などの情報によれば、今のところ中国政府が日本とのビジネスや経済関係に影響を与えようとする兆しは見られていません。

 前回のこのコラムで、日米2+2の直後に日本の垂秀夫駐中国大使が天津を訪れた際のエピソードを紹介しました。同市トップの李鴻忠・同市共産党委員会書記が「香港、新疆ウイグル地区、台湾への干渉は中日関係を損なうもの」と厳しい言葉を返したのです。

 しかし、同大使を天津に招いたのはそもそも天津の側でした。同大使が昨年11月に赴任して以降、中国地方政府による最初の招待だったそうです。天津側は同大使から要望を聞き取り、日本人ビジネスパーソンが抱える問題に善処すると約束しました。例えば、新型コロナのため、家族を呼び寄せたくてもビザの発給に時間がかかるなどの問題が生じています。李鴻忠氏はこれを解消すべく、関係部署にすぐに指示を出したそうです。

 垂大使は天津に続いて武漢を訪れました。ここでは、日米2+2に関する言及は全くなく、友好的なやり取りに終始したといいます。

 日本企業の活動に対するネガティブな影響も今のところ皆無です。日本製品の売れ行きに変化はありません。自動車、家電、モーターなど販売好調が続いています。日本企業の幹部が招かれていた中国の地方視察も予定通り実施されています。中国政府は今後、若干の揺れはあるでしょうが、基本的に政経分離の方針で日本に臨むとみられます。

 こうした方針が中国国内で実際どのように運用されているかについてメディアが報道することはほとんどありません。日本の本社経営層としては日本や海外の主要メディアの報道に振り回されないように注意しながら、自社の現地責任者などが直接もたらすタイムリーな情報を重視して中国事業戦略を判断すべきです。

中国経済の1~3月期は過去最高の18.3%成長

瀬口:こうした中で、中国経済はコロナ禍を克服し、順調に回復しています。1~3月期のGDP(国内総生産)は前年同期比18.3%増を記録しました。2020年1~3月期の落ち込みが大きかったことの反動ではあるものの、過去最高の伸びとなりました。けん引役は企業の設備投資と消費です。

 設備投資に関して、2月と3月の前月比の伸び率を見ると、それぞれ前月比1.5%増、年率で約18%増となります。昨年12月から本年1月にかけて、上海や北京でコロナの陽性患者が見つかったため、厳しい移動制限措置が取られ、それがビジネスマインドに影響し、投資の伸びを押し下げました。しかし、2月には落ち着きました。2月の数値は1月の低迷を受けた反動の面がありますが、3月の伸びは経済の正常化を反映した本格的なものです。

 消費も3月から本格的に回復しています。4月最後の週末に貴州省貴陽市の観光地を訪れたという現地の中国人の友人によると、人出が非常に多く、普通に歩けない状態だったそうです。「行って後悔した」と話していました。5月の5連休を前に、この時期の中国国内線のチケットにはプレミアムがついています。ホテルの宿泊料も値上がりしている。

 日本と異なり、何ら心配することなく外出できる状態に復したわけです。4月下旬には、上海モーターショーも通常通り会場で開催されました。同じ頃に、北京日本商会の年次総会が開催されました。この後にホテル宴会場で開かれた立食パーティーは、現地駐在の日本企業幹部200~300人が出席し、文字通り「3密」状態の中でマスクなしで行われたそうです。欧州・米国商会も同様のパーティーをマスクなしで実施しています。

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