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戦乱を避けるべく国外を目指す人々。不法移民を取り締まる役所にこうした数多くの避難民が集まっている(写真:ロイター/アフロ)

 リビアには行ったこともなければ、ほとんど関心もなかったので、リビアについて書くのはためらうのだが、リビア情勢が風雲急を告げるなか、歴史的側面を踏まえて、異なる視点でリビアのことを考えてみた。

 『砂漠のライオン』というハリウッド映画をご覧になったことがあるだろうか。20世紀前半に活躍したリビア独立の英雄、オマル・ムフタールの生涯を描いた作品で、リビアの最高指導者だったムアンマル・ガッダーフィー(カダフィ)が私財を投じて作らせたといわれている。主演は、アラブ人の役を演じさせたらアラブ人にも負けないメキシコ系米国人の名優、アンソニー・クインだ。私は学生時代にこの作品をテレビで見ていて、不覚にも泣いてしまった。ある程度、リビア、あるいは中東に関心のある人にとっては、それなりに評価された作品だったが、残念なことに商業的に成功したとはいいがたい。

 ちなみに監督は、ムスタファー・アッカード、シリア系米国人の映画プロデューサー兼監督である。監督作品としては、『砂漠のライオン』のほか、預言者ムハンマドの伝記である『ザ・メッセージ』などがある。

 なお、アンソニー・クインはこの『ザ・メッセージ』にも預言者の叔父であるハムザ・ブン・アブドゥルムッタリブ役で出演している。宗教上の理由で、預言者の姿や声は画面に出せないので、彼が事実上の主役といっていい。

 蛇足ついでにいうと、監督のアッカードが一番有名なのは、ホラー映画のシリーズ、『ハロウィン』のプロデューサーとしてであろう。さらに付け加えると、アッカードは2005年、ヨルダンの首都アンマンで発生した連続爆弾テロ事件に巻き込まれて、殺されている。犯人はアルカイダのイラク支部で、そのとき実行犯の一人として逮捕されたのがサージダ・リーシャーウィー。彼女は2015年に発生したテロ組織「イスラーム国(IS)」による日本人誘拐殺害事件の関連で、ヨルダン政府により報復処刑されたので、ご記憶のかたもいるだろう。

「われわれは降伏しない民なんだよ」

 閑話休題。映画はリビア独立を描いていると書いたが、これがけっこう複雑なのだ。リビアは16世紀以降、オスマン帝国に支配されていたが、1911年に地中海を挟んだ対岸にあるイタリアによって占領される。以後、リビアではイタリアからの独立を目指す激しい武装闘争が繰り広げられる。映画の主人公、オマル・ムフタールはその武装闘争の指導者の一人であった。

 オマル・ムフタールは、リビア東部キレナイカ(バルカ)地方を拠点とするイスラーム神秘主義(スーフィズム)教団サヌーシー教団のメンバーで、キレナイカを中心にベドウィン部族らを糾合し、反イタリア闘争を展開、砂漠での戦いに不慣れなイタリア軍を大いに苦しめた。しかし、最後にはイタリア軍に捕らえられ、処刑されてしまう。

 映画では捕らわれの身となったオマル・ムフタールがイタリアのキレナイカ総督グラツィアーニに「われわれは降伏しない民なんだよ。勝利するか、さもなくば死ぬかだ」と語る場面がある(これが史実かどうかは不明)。だが、結局、彼はたくさんのリビア民衆の目の前で絞首刑に処せられる。彼が処刑台につるされた、その瞬間、見守っていた女たちからザグルータ(あるいはザガーリード)と呼ばれるアラブ独特の掛け声がいっせいに湧きあがる(ここ泣きどころ)。