他に類を見ない厳しさ、隔離は30日間に及ぶ

 国家非常防疫システムによって、北朝鮮の国内での感染予防活動も本格的に始まった。2月5日の朝鮮中央通信の報道によると、換気・手洗い・マスク着用が各地で宣伝・奨励された。翌6日には平壌市衣料工業管理局衣料技術準備所がマスク生産の準備を始めたことが報道され、マスクの増産に着手したことが明らかになった。2月4日にWHOの担当者が「必ずしもマスク着用は感染予防にはならない」と言っていたのとは対照的である。2月22日に明らかになったところによると、屋外でのマスク着用が国家の指示として全住民に義務付けられた(屋内義務は確認できないが、報道写真を見る限り、一般人は屋内でもマスクを着用している)。

 北朝鮮の中央衛生防疫所が2月3日に「世界的に新型コロナウイルスに対するワクチンと治療薬が開発されていない状況の下で、予防が最善の方途」と発表したように、北朝鮮の新型コロナウイルス対策は、水際対策と感染予防を徹底していた。北朝鮮の徹底した水際対策を医療施設の水準の低さに求める議論があるが、新型コロナウイルスに限れば、それはあまり関係ないかもしれない。新型コロナウイルス感染症に治療法がないのは、北朝鮮に限らず、世界のどこでも同じである。そのため、治療のための医療施設の充実よりも、まず水際対策と感染予防が重要であることを北朝鮮は当初から強く認識していたのであろう。

 治療法がないのであれば、感染の疑いがある者を社会から隔離するしかない。たとえ医療施設が少なくても、北朝鮮は隔離施設には困らないだろう。そのため、感染の疑いがあったり、新たに入国したりした者に対する隔離政策も他に類がないほど厳しいものになった。2月12日の報道によると、国会である最高人民会議の常任委員会が緊急採択した決定によって隔離期間が30日に延長された。多くの国の隔離期間は2週間程度だが、北朝鮮はその約2倍を設定したのである。理由は、新型コロナウイルスの潜伏期間が24日という研究結果が出ているからだという。この決定は、隔離政策が始まってもうすぐ15日になる直前に採択されたため、15日間の予定で隔離されていた人たちも30日間隔離される羽目になった。

 輸入物資の検疫もさらに強化された。輸入物資を運んだ車両や船舶、さらに物資は検査の上、消毒を行うことにした。さらに、物資は閉鎖された場所に10日間自然放置してから引き渡すことになった。輸入のために寄港した船舶による汚物の海洋投棄も厳禁し、周辺住民による海洋漂流物の拾得も禁止した。

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