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トランプ大統領の「司法妨害」容疑事案はなんと10件

 民主党や主要メディアが噛みついたのは、この「10件の事例」だ。バー司法長官は、これらが訴追に値するか否かについては、バー長官とローゼンスタイン副長官との間でも意見対立があったことを認めている。

 メディアは当然、この10件を一つひとつ精査するだろうし、下院司法委員会はもとより関係する他の委員会も集中的に解明するだろう。同大統領による司法妨害疑惑の解明を続ける下院司法委員会は18日、モラー特別検察官の証人喚問を正式に要請した。バー司法長官は記者団の質問に、「モラー特別検察官の議会証言には反対しない」と答えている。ホワイトハウスと事前にすり合わせたうえでの決定だろう。ここまではすべてシナリオ通りと考えられる。

 報告書全文の公表を受けて、トランプ大統領が司法妨害したか否かの解明は、民主党が過半数を握る下院に委ねられた。

 下院では司法委員会以外に、査察・政府改革委員会などが一斉に動き出している。これらの委員会もモラー特別検察官の証人喚問を要請するだろう。トランプ大統領の長男ジュニア氏や娘婿ジャレッド・クシュナー上級顧問らも証人喚問を余儀なくされる。

 ロシア疑惑を取材してきた、主要紙のベテラン記者は、現状について筆者にこう解説する。「すべては2020年の米大統領選に向けた民主党と共和党の前哨戦だ。民主党は司法妨害容疑を武器にトランプ大統領を攻め立てるだろう。ナンシー・ペロシ下院議長ら民主党首脳陣は、弾劾決議案を出しても共和党の一部が賛成しない限り可決成立は難しいことを十分理解している。トランプ共和党を打ち負かす確実な方法は20年の大統領選で民主党が勝つ以外にないと判断している」

 「そのためには各委員会を舞台にトランプ大統領の容疑についてできるだけ長く聴聞会を続ける。20年大統領選でトランプ再選を阻むため、トランプ氏に徹底的にダメージを与えるのが狙いだ」

 「トランプ大統領が関わる不正の疑惑はロシア疑惑だけではない。脱税疑惑、公選法違反、親族による権力乱用容疑などオンパレードだ。これらについても議会は動くだろう。なによりもトランプ氏が恐れるのは、連邦検察局ニューヨーク州南部地区地検の捜査だ。トランプ一族が営利活動を行っているマンハッタン地区を管轄する最強の検事集団だ」

ついに逮捕されたアサンジ氏もFBIの重要参考人

 トランプ大統領は、ロシア疑惑をめぐる自らの「容疑」はこれで完全に晴れたと胸を張っている。だが、政治サイトのアクシオス(Axios)は、これに反論する。

 ロシア疑惑ですら、同大統領の「容疑」はまだ消えていないというのだ。次のような事案を列挙している。

1)マイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障担当、当時)が駐米ロシア大使と会い、対ロシア経済制裁について協議したが、トランプ大統領はそのことを事前に知っていたのかどうか。事前に知らなかったとすればいつそのことを知らされたのか。

2)ヒラリー・クリントン民主党大統領候補(当時)や民主党全国委員会の内部文書を内部告発・情報漏洩サイトの「ウィキリークス」が流したことをトランプ選対委員会の責任者、ロジャー・ストーン氏ら幹部はいつ知ったのか。トランプ大統領はいつ知ったのか。

3)「ウィキリークス」は漏洩した民主党全国委員会の内部文書をどうやって入手したのか。ロシア側が「ウィキリークス」に流したのか。それとも「ウィキリークス」発行人のジュリアン・アサンジ氏が独自に入手したのか。
(同氏は亡命先のエクアドル駐英大使館から追放された直後に英国警察に逮捕された。米FBIは身柄引き渡しを要求しており、ロシア疑惑捜査における重要参考人とする考え。公判が始まるとして、いつから、どのくらい続くのか。20年の大統領選とのタイミングとの関連で米政治・社会にインパクトを与えるのは必至だ)
"1 big thing: What Mueller witness expect," Axios AM, 4/18/2019)

 モラー特別検察官の最終報告書が公表された。これによってトランプ大統領をすっぽりと包んできた暗雲の一部が晴れた。だが、初夏の透き通るような青空が出現したわけではない。