ウイグル巡る中国の政策に抗議 トルコでデモ(写真:AFP/アフロ)

 新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の扱いをめぐり、中国と世界、特に先進民主主義諸国との対立が激化している。

 米国は、新疆における中国当局の対応を重大な人権侵害、ジェノサイドと認定し、制裁措置を発動した。EU(欧州連合)も同調している。「ジェノサイド」は、ナチスによるユダヤ人集団虐殺に用いた言葉であり、重い意味を持つ。米国はこの言葉を、1948年に国連総会で採択された「ジェノサイド条約」(集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約、発効は1951年)にいうジェノサイドの意味で使っているのだろう。同条約はジェノサイドの中身を具体的に定義している。日本は加入していないが、米国も中国も加入している。

 中国は一連の行動について、新疆で増大するテロ行為への対処であり、ウイグル人の人権は守られていると主張する。加えて、これを内政問題と位置づける。

 確かに新疆におけるイスラム過激派の影響が一時強まり、中国当局は大変心配していた。特に中国からの独立を主張する東トルキスタン・イスラム運動など国外で活動するウイグル族の組織の動きを気にしていた。2013年秋、ウイグル人が天安門広場で起こした車両突入・炎上事件はテロ攻撃とされた。2014年4月には、ウルムチの鉄道駅で多くの死傷者を出した爆発事件が発生。この攻撃は、習近平(シー・ジンピン)国家主席の新疆視察に合わせて実行されたとみなされた。

 これ以後、新疆のウイグル人に対する管理と「再教育」は格段に強化されたといわれる。その後も新疆でのテロ事件は散発している。

中国の人権尊重に「大漢民族主義」の壁

 テロ対策の強化と、ウイグル人あるいはイスラム教徒たちの人権尊重とを両立するのは容易ではない。中国においては往々にして管理する側の論理が優先され、管理される側の立場は軽視されがちになる。テロ予防が至上命令となり、必要以上の措置が取られていることは十分あり得る。その結果、ウイグル人の人権が過度に制約される状況となってしまうのだろう。ジェノサイド条約違反という事態が生じるわけだ。

 しかも、中国とわれわれとの間で「人権」に関する解釈の差が拡大している。習近平政権となって特にこの差は開く傾向にある。中国は、人権には多くの種類があり、最も重要なのは「生存権」と「発展する権利」であると考える。これらを守るために他の権利、例えば政治的権利が制限されてもやむを得ないと考えている。

 これに加えて、中国共産党の少数民族政策は当初から困難を抱えていた。それは、少数民族に対して漢民族が抱く優越感や差別である。これは「大漢民族主義」と呼ばれる。

 中国は国民党の時代も、共産党の時代も、漢民族を含む56の民族を中華民族と総称し、中国という国をともにつくり上げたという建前をとってきた。56民族がつくり出したのが中華文明であり、漢民族の独占物ではない。従って中国共産党は「大漢民族主義」を抑え込む努力をしてきた。しかし、多くの現場で失敗している。少数民族の伝統と文化、彼らの生活様式と宗教に対する敬意と配慮が著しく不足していたからだ。

 このような背景の下で、国際標準(中国式に言えば先進民主主義諸国標準)に反する人権侵害が中国の少数民族地域で起こってしまうのである。

続きを読む 2/3 人権外交が難しい3つの理由

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