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選挙を経ない国務委員長の存在は、「絶対君主制」と言われても仕方ない(写真=KNS/KCNA/AFP/アフロ)

 北朝鮮で2019年4月11日、最高人民会議第14期第1次会議の1日目が開催された。最高人民会議は毎年4月上旬ごろに開催されるので、これは従来の制度どおりである。しかし、そこで決定されたことは、筆者が想定したものとは異なっていた。想定した直接選挙制の大統領制には移行しなかった(参考記事「金正恩は大統領になるのか?!」)。想定が外れたことは筆者の力量不足である。

 同会議では70年にわたって踏襲されてきた政治制度上の手続きが大きく変更された。金正恩(キム・ジョンウン)は選挙を経ないまま最高人民会議で国務委員会委員長(執政長官)に選ばれた。もちろん、最高人民会議の代議員でない金正恩は、最高人民会議に出席していない。金正恩が不在の最高人民会議で、彼は執政長官に選ばれたのである。

 この国務委員会委員長は、従来のものとは異なり、議院内閣制における執政長官ではない。議院内閣制を採る北朝鮮では、執政長官は、選挙によって選ばれた代議員の中から選出されてきた。厳密には1度だけ例外がある。金正恩は、父である金正日(キム・ジョンイル)が死去した後の12年4月13日に、国防委員会第1委員長(当時の執政長官の名称)に選ばれた。この時の金正恩は選挙によって最高人民会議代議員に選ばれたことが確認されていなかった。しかし、同氏は最高人民会議には出席していたので、補選によって代議員になっていたことが明らかになった。今回は、それすらなかった。

 北朝鮮が非民主主義国家であるのは主に選挙制度によるものであったのだが、これで執政制度でも非民主主義国家になったことになる。形式的にであれ、約70年にわたって踏襲してきた政治制度上の手続きを大きく変更したのだ。今までも諸外国から「君主制(王朝)」と揶揄(やゆ)されてきたが、これでは、立憲君主制ではなく「絶対君主制」と言われても仕方ない。少なくとも、形式的にせよ、執政制度が権威主義体制であることが明らかになった。金正恩の祖父である金日成(キム・イルソン)があれほど嫌った、韓国の1972年以降の朴正煕(パク・チョンヒ)政権や全斗煥(チョン・ドファン)政権と同じである。

 最高人民会議第14期第1次会議では、崔龍海(チェ・リョンヘ)代議員が「朝鮮労働党委員長同志に運命と未来を完全に任せ、いちずにつき従う最高人民会議代議員と全国人民と人民軍将兵のひたむきな意思と念願を込めて」金正恩を国務委員会委員長に推薦した。つまり、選挙の手続きを踏まなくても、すべての代議員と国民と軍将兵が慕っているから、金正恩が執政長官になれると言っているのである。政党組織ならばあり得る手続きであるが、政府機関ではさすがの北朝鮮でもこのような手続きは取ってこなかった。

 たしかに北朝鮮の選挙は、政治儀式にすぎないので、選挙の手続きをしても金正恩は国務委員会委員長に選ばれたはずである。金正恩が選挙を経なかったからといって、朝鮮労働党委員長である金正恩の権力に変わりはない。だが、逆に言えば、ではなぜ、これまで通りの選挙の手続きを経なかったのかという疑問はある。これは明らかに従来の政治制度の変更である。

 これが次の選挙までの臨時的な措置であれば、約70年にわたる政治制度の手続きを無視したことにはならないだろう。しかし、同会議では、臨時的な措置とは言っていない。この新しい権威主義体制が今後も続くのかはまだ分からない。最高人民会議第14期第1次会議は、翌4月12日にも続いていると考えられるので、その続報によっては今後のことが分かるかもしれない。