EUはメイ首相との間で合意したBREXIT協定案の内容を変更することを拒否している。したがってEUが柔軟性を示すことができるのは、BREXITの期日だけである。しかし、EUは今回6カ月以上も期日を延期することで、BREXITをめぐる協議が延々と続く危険を抱え込んだ。英国側は「EUは意外と柔軟ではないか。結局合意なしのBREXITが怖いに違いない」と思うだろう。

 10月末の期日が近づいた時、英国政府が再び延期を求める可能性もある。EUが英国議会の人質に取られ、他の議題がおろそかにされるという危険は誇張ではない。

英国の欧州議会選挙参加への懸念

 さらにマクロン大統領らを心配させているのが、5月23日~26日に行われる欧州議会選挙である。

 当初EU側は、英国をこの選挙に参加させない方針だった。EUを離脱しようとしている英国の議員を欧州議会に参加させた場合、立法過程に問題が生じる恐れがあるからだ。

 たとえば将来ある法案が欧州議会で可決され、賛成した議員の中に英国からの議員が含まれていたとしよう。今年秋に英国がEUを離脱した場合、他の国の議員が「EUの加盟国ではない英国の議員が投じた票は無効だ」と主張して、法案の撤回または採決のやり直しを求める声が出る可能性がある。

 したがってEU側は当初「BREXITの期限は、どんなに延ばしても欧州議会選挙直前の5月22日まで」と主張していた。EU加盟国の首脳は、英国が欧州議会選挙に参加した場合、BREXITの混乱がEUに飛び火すると危惧しているのだ。

 EU側がBREXITの期限を10月末まで延ばしたことは、欧州議会が法案の妥当性に関するリスクを抱え込んだことを意味する。

メイ首相の無策への絶望感?

 EU加盟国は、絶対に譲れない「レッド・ライン」としていた5月22日の防衛線をなぜあっさり放棄したのだろうか。メイ首相のBREXIT協定案は、今年1月以降すでに3回も英国議会下院で否決されている。メイ首相は最近、野党労働党のジェレミー・コービン党首と打開策を協議し始めた。コービン氏はあわよくば保守党政権を打倒し、自分が首相になることを狙っている人物だ。自分の党すら統御できない首相が、野党党首に自分の提案をすんなりと受け入れさせることができるとは到底考えられない。

 EU側は英国に5月22日まで猶予を与えても、メイ首相が協定案を英国議会で通過させることは不可能だと判断したのだ。つまり2カ月程度の延期では解決策とならないほど、メイ首相は手持ちのカードがなくなっているのだ。

 欧州議会選挙では、イタリアやドイツ、フランスなどの右派ポピュリスト政党による会派が、得票率を伸ばすことを狙っている。BREXITをめぐりEUと英国政府が陥った袋小路は、ポピュリスト政党にとって「伝統政党の統治能力が欠如している」ことを有権者にアピールする上で、絶好の材料となるだろう。欧州が歩みつつある暗夜行路の終着点は、まだ当分見えそうにない。

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