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EU改革の遅れを気にするマクロン仏大統領は離脱延期に強く反対した(写真:AP/アフロ)

 興味深いのは、EU(欧州連合)のドナルド・トゥスク大統領が延期についての合意をツイッターで発表した、4月11日午前1時57分という時刻だ。

 各国の首脳たちは前日の午後6時に会議を始め、日付が変わるまで合意に達することができなかった。これは、延期の是非について激しい議論が行われたことを示している。

「EUはBREXITの人質にされる」

 BREXIT(英国のEU離脱)の期限はまず3月29日から4月12日に延ばされた後、テリーザ・メイ英首相が6月末までの延期を要請していた。

 EU側の態度も一枚岩ではない。EUの事実上のリーダー国ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、前日のメイ首相との個別会談で、期限の延期について比較的柔軟な態度を示していた。

 これに対し、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はメルケル氏よりも延期に批判的な態度を取ってきた。同氏は首脳会議の前に「延期を認めるには、英国政府が具体的なスケジュールを示すことが条件だ」と発言した。会議が8時間近く続いたことは、メイ首相がBREXITに向けての具体的なプランを他国の首脳たちに示すことができず、フランスなどが強く反発したことを示唆している。

 マクロン大統領は会議の後「今後数カ月の間に、BREXITをめぐる協議がEUの他のプロジェクトを危険にさらすのを避けることが不可欠だ。我々は欧州を再生させなくてはならない。BREXITがこのプロジェクトを妨害してはならない」というコメントを発表している。またベルギーのシャルル・ミシェル首相も「私は英国議会が抱える問題の人質にされるのはごめんだ」と語っている。

EU改革プロジェクトに遅れ

 マクロン大統領がBREXITの延期について批判的である理由は、彼がドイツと共同で主導権を取って、EUの競争力を強化するためのプロジェクトを始めようとしているからだ。具体的には、欧州にデジタル化を担当する新しい官庁を設置し、中国や米国に比べて遅れている人工知能の研究開発を加速する。

 またEUは対米政策でも難題を抱えている。ドナルド・トランプ大統領が率いる米国との関係は、日に日に悪化している。貿易摩擦は日ごとに深刻化し、米国はEU加盟国から輸入する自動車の関税を大幅に引き上げる可能性がある。これはモノづくり大国ドイツに深刻な打撃を与える。

 さらにトランプ氏は、欧州防衛の要だった軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)についても批判的な姿勢を強めている。欧州諸国は、米国抜きでも局地紛争などに対応できる態勢をこれまで以上に整えなくてはならない。

 さらにEUでは、財政難に苦しむ東欧諸国と南欧諸国を中心に、中国の一帯一路計画に参加する国が増えており、対中戦略において足並みの乱れが生じている。このためEUは統率の取れた対中戦略について一刻も早く合意し、加盟国に対して「抜け駆け」を禁じる必要がある。

 だが今年1月以来、EUはBREXITへの対応に時間を割かれてしまい、首脳会議を開いてもこれらの重要な議題について十分に協議することができない状態が続いている。誰も公には言わないが、「BREXITをめぐる協議に一刻も早く決着をつけてほしい」というのがEU側の本音である。