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ネタニヤフ首相をめぐり社会に亀裂

 イスラエルではトランプ大統領に対する人気が極めて高い。ネタニヤフ政権のカッツ運輸・道路安全大臣は、テルアビブとエルサレムを結ぶ高速鉄道の駅のうち、エルサレムの嘆きの壁に近い駅を「ドナルド・トランプ駅」と名付ける方針を明らかにしている。彼がエルサレムをイスラエルの首都と認めたことに対する感謝の念を表すためだ。

イスラエルではトランプ人気が高い
資料=ハーレツ(イスラエルの日刊紙)2018年8月の世論調査
ピュー・リサーチ・センター(米国)

 もちろん同国にも、「イスラエルは、ガザ地区から完全に撤退したように、ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地を放棄すべきだ。エルサレムも東西に分割し、ユダヤ人はパレスチナと完全にたもとを分かつべきだ」と主張する人々はいる。だがパレスチナ国家の創設を認めるべきだと考える人々は少数派である。

イスラエル社会を分断する亀裂は埋まらず

 イスラエルは、ネタニヤフ派と反ネタニヤフ派、右派勢力対リベラル勢力の間で深く分断されている。ガンツ氏の高い得票率は、そのことを浮き彫りにしている。

 ユダヤ人とパレスチナ系(アラブ系)市民の間の亀裂も深い。ネタニヤフ政権は2018年7月に「イスラエルをユダヤ人国家と規定する基本法」をクネセトで可決させた。この法律は、「国家の自決権を持つのはユダヤ人だけ」と規定したことから、パレスチナ人やドルーズ人(イスラエルなど中東地域に住むイスラム教を信じる少数民族。イスラエルには約13万人が住む)など少数派に属する市民から、厳しく批判された。

 今回の総選挙で、現地時間9日午後4時の投票率は42.8%で、前回の選挙よりも2.6ポイント低かった。イスラエルの報道機関はその理由について、イスラエルの人口の約20%を占めるアラブ系住民たちが、政治に失望して選挙をボイコットしたためと見ている。

 筆者の知人であるイスラエル人弁護士は、「ネタニヤフ氏はポピュリストだ」と断言する。この女性は総選挙の2週間前に「多くのイスラエル市民は政治に関心がない。ネタニヤフ氏の汚職疑惑にもかかわらず、多くの有権者はリクードに票を投じ、ネタニヤフ氏は右派政党の支援を受けて再び首相になるだろう」と語っていた。この弁護士の予想は的中した。

 リクードの単独政党としての議席数が前回の30議席から5議席増えたことは、ネタニヤフ氏の「愛国心カード」とトランプ大統領の援護射撃が、彼の地位をより強固なものにしたことを表しているのかもしれない。汚職疑惑は、リクードの議席数を全く減らさなかった。多くの有権者は清廉潔白さよりも、イスラエルの安全とパレスチナ問題における強硬姿勢を政治家に望んだのだ。