台湾を訪れたポンペオ前米国務長官(写真:AP/アフロ)
台湾を訪れたポンペオ前米国務長官(写真:AP/アフロ)

キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹(以下、瀬口):「米国は、台湾を主権国家として承認すべきだ――」。トランプ米前政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏が台湾を訪れ、3月4日にこう発言しました。今日は、この出来事を取り上げます。

 同氏は「米国は必要かつ、とっくに実行しておくべきだったことを直ちに行う必要がある。台湾を自由な主権国家として承認することだ」と発言したのです。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:加藤 康、以下同)

 前回のコラムで、ロシアによるウクライナ侵攻が中国による台湾武力統一を促すことはないとお話ししました。理由は3つ。

(1)台湾の現状を維持しておいても中国にとって軍事リスクが高まることはない。台湾が本気で独立を宣言する可能性も当面は極めて小さい

(2)中国共産党の党大会が今秋に予定されている。習近平(シー・ジンピン)国家主席にとって、この場で総書記3期目の続投を決めることが最優先。それまで無用のリスクは取らない

(3)ウクライナをめぐって日米欧諸国が固い結束を示した

 ポンペオ氏の発言により、この(1)があやしくなりかねません。台湾の人々が今すぐ独立に傾くことはないでしょう。しかし、この発言は、独立への機運が台湾でじわじわ高まるのを後押しします。この動きは習国家主席の目に看過できない脅威と映るでしょう。NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に与えたのと同様の脅威です。

 台湾の独立は中国にとってのみならず、米国にとっても、日本をはじめとする周辺国にとっても好ましいことではありません。軍事衝突を引き起こすからです。その芽は早く摘み取るべきです。けれども、米政界の有力リーダーの中にはその気があるか疑わしい人物が少なからず存在しています。

 トランプ政権のみならずバイデン政権も、米中が1972年に出した上海コミュニケの合意をないがしろにする行動が続いているからです。

上海コミュニケにおいて米国政府は「中国は一つであり、台湾は中国の一部であるという中国の立場をアクノレッジ(acknowledge)する」としました。米国は、中国が「中国は一つであり、台湾は中国の一部である」と主張していることを事実として認識する。ただし、その主張の内容を承認するものではないという立場です。

瀬口:この点に関する合意が米中両国の外交関係の大前提と考えられています。79年に米中が国交を樹立する際にも、両国は「上海コミュニケで双方が合意した諸原則を再確認する」と共同声明で発表しているからです。米国政府はこの合意に基づいて79年に台湾と断交。その後、一貫してこの合意を尊重し、台湾当局との公式な交流を抑制してきました。

 これを崩したのがトランプ大統領(当時)です。アザー厚生長官などの高官を訪台させました。バイデン政権に代わっても、この動きは変わりません。バイデン大統領は自身の大統領就任式に、台湾の駐米代表に相当する蕭美琴氏を招き出席させました。台湾代表が米大統領の就任式に出席するのは、断交後初めてです。

 こうした積み重ねの上にポンペオ発言が加わったわけです。米国の世論において、この発言を批判する声はあまり聞かれません。米国民の70~80%が反中感情を抱いていることが背景にあります。米議会においては、議員の90%が「中国には厳しくあたるべきだ」と考えているといわれています。

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