
ドイツの世論調査機関アレンスバッハ人口動態研究所が3月24日に公表したデータは、衝撃的だった。メルケル政権の与党であるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の支持率が、昨年6月には40%だったが、今年3月には11.5ポイント減って28.5%に落ち込んだのだ。リベラル政党である緑の党や社会民主党(SPD)、保守中道の自由民主党(FDP)などの支持率が高まっているのと対照的である。
CDU・CSUの支持率は、メルケル政権が2015年に「超法規的措置」を講じて、約100万人のシリア難民にドイツでの亡命申請を許して以来、40%台から30%台に下降していた。メルケル首相の難民政策に多くの市民が不満を強めたからである。2019年後半からは、地球温暖化問題への取り組みの遅れから緑の党に人気を奪われ、支持率が20%台に下落した。
昨年3月に新型コロナパンデミック(世界的な大流行)が発生すると、CDU・CSUの支持率が急上昇し、一時は40%に達した。未知の病原体の襲来で強い不安にかられたドイツ人たちは、2005年の就任以来数々の危機に対処してきた経験豊富なメルケル首相の下に結束したのだ。だが11カ月にわたって30~40%台で推移していたCDU・CSUの支持率は、今やパンデミック発生前の水準に落ち込んでしまった。
米英に比べてワクチン接種に大幅な遅れ
支持率が急落した原因は何か。感染拡大第3波のために感染者数が日々急増する中、政府の対策が後手に回っていることに人々の不満が募っている。特に市民をいら立たせているのが、ワクチン接種の遅れだ。
英オックスフォード大学のデータバンク「Our World in Data」によると、4月1日の時点でワクチンを少なくとも1回接種された市民の数は、米国で9957万人、インドで5915万人、英国で3115万人だったのに対し、ドイツは962万人と大きく水をあけられている。
ワクチンを少なくとも1回接種された人の比率は、イスラエルで60.7%、英国で45.9%、米国で29.8%だが、ドイツは11.5%にすぎない。
コロナワクチンを世界で最初に開発したビオンテックという企業がある国で、ワクチン接種が他国に比べて遅れていることに多くの市民が首をかしげている。ロベルト・コッホ研究所によると、ドイツでは英国変異ウイルスB.1.1.7のために感染者数が急増している。4月1日だけで新型コロナウイルスへの感染者数が2万4300人増え、201人が死亡した。
英国とイスラエルでの調査から、ワクチンを1回接種するだけでも死亡や重症化の危険を減らすことが確認されている。これらの情報をふまえると、ワクチン接種のスピードは生死を左右する問題であり、市民の不満が募るのも無理はない。
遅れの理由は、(1)ドイツがワクチン調達交渉を一任した欧州連合(EU)と製薬会社との契約書に不備があったこと、(2)メルケル政権が年齢や基礎疾患の有無によるワクチン接種の優先順位を厳格に守ろうとしたため柔軟な接種ができなかったこと、(3)政府が3カ月にわたってホームドクター(かかりつけの医師)による市民へのワクチン接種を許可しなかったことだ。
また今年1月の時点では連邦健康省は州政府に対して、「2回目の接種用にワクチンの在庫を確保するように」と指示していた。当時は「ワクチンを1回打つだけでも重症化や死亡のリスクが減る」という確証がなかった。加えてメーカーの生産も滞っていた。つまり連邦健康省は、ワクチンを2回打たないと、有効ではないと考えていた。このため多くの州政府が、数百万本のワクチンを打たずに温存した。現在では、ワクチンを1回接種するだけでも一定の効果があることが分かっているので、この指示は撤回されている。この慎重な姿勢も、ワクチン接種を遅らせた。
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