ドイツがガス緊急事態の早期警報を初めて発令

 ぺスコフ報道官の恫喝(どうかつ)を重く見たドイツ政府は3月30日、ガス緊急事態宣言(NPG)の第1段階である「早期警報」を初めて発令した。連邦経済・気候保護省のロベルト・ハーベック大臣は「今のところ、ロシアはガスの供給を継続している。しかし、ロシア政府関係者の過去数週間の発言をみると、ドイツへのガス供給量が近い将来大幅に減ったり、途絶えたりする可能性が高まっている」と指摘。企業と市民に対してガス供給に支障が生じる事態に備え、ガスを節約するよう訴えた。

 NPGは(1)早期警報、(2)警報、(3)緊急事態の3段階から成る。(1)の早期警報は、企業や市民に対して、緊急事態が起きる可能性を知らせるためのもの。政府は、ガスの需要量や節約できる量などについて企業から情報を収集する。

 ガス供給に実際に支障が生じたり、需要が供給を上回ったりした場合には、政府が(2)の警報を発令する。この段階では、政府はまだ直接介入しない。ガス会社が調達や供給を最適化するなど、市場メカニズムを使った措置によって対応する。

 しかし、ガス供給量の減少や供給停止が続き、民間企業が対応しきれなくなった場合には、政府が(3)の緊急事態を宣言し、連邦系統規制庁がガスの配給を始める。第3段階になっても、家庭、病院、介護施設、ガス火力発電所などへの供給は制限しない。連邦系統規制庁は、企業が製造活動などにガスを必要とする度合いに応じてガスを配給する。最悪の場合、ガスの供給を断たれる企業も現れる。

 ところがロシア側は3月30日、ルーブル決済を義務化する指令を緩和した。プーチン大統領が、ドイツのオラフ・ショルツ首相と電話会談した際に「西欧の企業に例外を認める」と語ったのだ。

 プーチン大統領は4月1日、ガス代金に関する政令に署名し「ルーブルによる支払いを行わない外国企業に対しては、ガスの供給をやめる」と警告した。だが、その一方で「ただし西側企業はルクセンブルクのガスプロム銀行に口座を開設すれば、この口座にユーロかドルで代金を支払うことができる。ガスプロム銀行が代金をルーブルに交換して、ガスプロムの口座に振り込む」という例外措置も認めた。

 つまりロシア政府は、硬軟織り交ぜた態度を打ち出した。ドイツ政府は、ガスプロム銀行を使った代金支払いを認めるかどうか、まだ決定していない。ショルツ政権は「政令の内容を精査しないと、この方法を受け入れられるかどうか断言できない」として、慎重な態度を崩していない。次のガス代金支払いの期限は今年4月末なので、そのときまでにドイツ政府と企業は公式見解を打ち出すだろう。

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