ロシアのウラジミール・プーチン大統領が3月23日、「非友好国が支払う天然ガス代金はルーブルに限る」と発表した。この発表はドイツの経済界をパニックに陥れ、ガスという「ものづくり大国」の血液が人質に取られた実態を浮き彫りにした。

この発表に最も強い衝撃を受けたのは、ロシアからのガス輸入量が欧州連合(EU)加盟国で最も多いドイツである。2020年にEUが輸入したロシア産ガスのうち、37.6%がドイツ向けだった。
ドイツのエネルギー企業とロシアの国営企業ガスプロムとの間のガス購入契約によると、ドイツ側はガス代金をユーロまたはドルでガスプロムに払うことになっている。これまでドイツなど西欧諸国に供給されるロシア産ガスの代金の60%がユーロで、40%がドルで支払われてきた。
プーチン大統領の発表がドイツを困惑させたのは、ドイツ企業がルーブルをロシアの銀行から調達できないことが理由だ。EUが取り組む経済制裁措置により、ドイツ企業はロシアの大半の銀行との取引を禁じられている。
このため主要7カ国(G7)は3月28日、「ガス代金の支払いをルーブルに限るというロシア政府の決定は契約違反であり、受け入れられない」と発表し、プーチン大統領の指令を拒否した。
これに対し、ロシア政府のドミトリー・ぺスコフ大統領報道官は3月29日、「我々は慈善事業をやっているわけではない。ルーブルによる支払いがなければ、我々はガスを供給しない」と述べ、西欧諸国へのガス供給を停止する可能性を示唆した。ドイツなどEU加盟国に対する露骨な脅しである。
ウクライナ危機をめぐってロシア政府がガス供給の停止を示唆したのは、これが初めてではない。2月22日、ドイツ政府が「ノルドストリーム2(NS2)」の稼働許可申請の審査を停止したときにも、ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相が「我々は、すでに稼働しているノルドストリーム1によるガス供給を止める権利を持っている」と発言した。NS2はロシアからドイツにガスを供給する海底パイプラインだ。
ソ連(当時)は、東西冷戦の期間中も西欧に忠実にガスを送り続けた。ソ連(ロシア)が、西欧に対する政治的武器としてガスを使うのは第2次世界大戦後初めてのことである。
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