医薬品不足や食料品価格の上昇も

 合意なき離脱ともなれば、先に挙げたユーロスターなどの電車や道路などの混乱や、医薬品供給不足の恐れがある。また食料品の3割はEUからの輸入に頼っているため、関税の引き上げや輸送の遅延による食料品価格の上昇などが予想されている。その他にも携帯電話使用料の上昇(EU内で撤廃されたローミングチャージの復活)など懸念材料を挙げればきりがない。

 英国企業の多くは(特に中小企業)、合意なき離脱を見越した事前の対策は費用がかかるために消極的であったが、合意なき離脱の可能性が高まる中、重い腰を上げているのが実情である。

 英国の金融当局は、欧州の金融機関が許認可を申請する間(3年間)は、現状維持のままで営業することを認めている。さらに大きな問題とされていたデリバティブの清算機関の問題は、EUの金融機関が、合意なき離脱後1年間、英国の清算機関を利用することを認める暫定措置を欧州委員会が承認している。それ以外の対応は乏しく、EUがさらなる暫定的な猶予措置を付与する兆しは見せてない。

 ただし英国に拠点を置く銀行や保険会社のほとんどは最悪の場合に備えており、EU加盟国での許認可申請、欧州大陸への従業員移動(準備)、EU加盟国の新たな拠点での従業員確保などを行っている。

 一方、影響が大きいのが製造業、農業、接客業などであろう。特に製造業では完成までに何度も部品が英・大陸間を往復することもある自動車や航空業界への影響が必至である。また農業では収穫を支える季節労働者の確保が難しくなるほか、生産した野菜や果物などはEU規制に完全に準拠しているにもかかわらず、域外国として検疫の対象となる。

 接客業でも、離脱後にEUから訪れる移民に対し最低年俸3万ポンドのしきい値が設定されれば、そもそもウエーターなどの人材確保が難しくなるため、コーヒー1杯の値段にも影響が表れる可能性が高い。

 一方、運輸業界は特需といわれており、工場の撤退やEU諸国に戻る従業員の引っ越しなどで現時点でもフル稼働である。ただ仏カレー港では、合意なき離脱となり混乱が生じた際に、不法移民が英国向けトラックに紛れる事態が懸念されており、同港が一時的に閉鎖される可能性がある。

 自動車免許への影響も大きいとされる。今までは英国で運転免許を取ればそれがEU内で共通に使えたため国際免許は不要であったが、これがなくなる。しかもEU内で国際免許は複数あり、日本のように1つ取ればよいわけではなく、フランスとスペインでは別々の国際免許を取得する必要があるなど、複雑な対応が求められる。

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