選挙後、記者会見に集まった反軍政勢力。前列中央がタイ貢献党のスダラット党首(写真:AFP/アフロ)
選挙後、記者会見に集まった反軍政勢力。前列中央がタイ貢献党のスダラット党首(写真:AFP/アフロ)

 2019年3月24日、タイの総選挙が終わった。3月26日付の日本貿易振興機構(ジェトロ)の「ビジネス短信」は、タイの公共放送PBSの報じた選挙結果を伝えており、それによれば、タイ貢献党が135議席で第1党、国民国家の力党が119議席、新未来党が87議席、民主党が55議席となっている。

 ただし、2017年憲法によれば、首相の選出にあたっては、今回公選された500議席の下院に加えて250議席の上院にも投票権がある。そして、上院は事実上軍政の任命議員によって占められている。その結果、首相選出に必要な議席数は、750議席の過半を超える376議席以上となる。PBSの速報通りであれば、軍政側は、既に369議席獲得しており、52議席を獲得したタイ誇り党との連立や、その他の未定を含む52議席のうちから、7議席を切り崩せば首相を指名することができる。

 また、そもそも軍政寄りの民主党がどのように最終的な判断をするかは予断を許さない。

軍政寄りの民主党は惨敗

 以上の情勢を踏まえた上でも、やはりタクシン派の善戦というのが今回の選挙結果の一つの総括であることに変わりないだろう。今回の選挙は、小選挙区で選出される議席を減らしており、小選挙区制の特性を活用してきたタクシン派のタイ貢献党には厳しい選挙制度となっていた。

 また、民主党が惨敗したことも今回の選挙の一つの総括であろう。同党はタイ貢献党と対立し、一時は親軍政党、タイ貢献党との三つどもえを演じるとも思われた。そもそも、政党でありながら軍政との距離を測りかねていた民主党は、新興政党である新未来党に惨敗したともいえる。

 現職の強みを生かして軍政支持政党である国民国家の力党が政権を発足させるとしても、やはり国会運営や、次の選挙(?)でタクシン派の動向を無視することはできないだろう。ところで、タクシン派とはそもそもどのような人々なのだろうか。

タクシン派の中心はチナワット家だけではない

 タクシン派とは、もちろんタクシン・チナワット元首相に端を発する。その地盤として、しばしば北部や東北部が取り上げられる。しかし、タクシン氏の出身は北部であっても東北部ではない。また、東北部の多数を占めるラオ系の人物でもない。

 また、タクシン氏の妹であるインラック氏がタイ貢献党を率いて首相を務めたことから、タクシン派はチナワット家のものであると思われるかもしれない。しかし、タイ貢献党の現在の党首は、同家との血縁にはない。スダラット現党首は、タクシン氏とともにタイ愛国党を結党した政治家で、地盤はバンコクである。

 それではタクシン派とは何であろうか。また、なぜタクシン派は北部のみならず東北部を地盤とすることになったのであろうか。

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