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日本を取り巻く新型コロナウイルス禍が正念場を迎える。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之氏は「日本が、これまでにやるべきだったのにやってこなかったことに気づかされた」と説く。第1は遠隔医療、第2は現金給付のための個人所得捕捉だ。いずれもITの進歩が可能にした。私権の制限につながりかねない措置だが、人の命や社会の安定を守るためには必要と考える。

(聞き手 森 永輔)

週末の外出自粛要請を受け、人影もまばらになった都心の風景(写真:ZUMA Press/アフロ)

中国・湖北省が、武漢の封鎖を4月8日に解除すると発表。他の省でも、製造業が生産拠点の再開を急いでいる様子が伝えられるようになりました。

瀬口:そうですね。ただし、感染被害の中心が中国から欧米に移るにつれ、“犯人捜し”のような動きが目立っています。これは憂慮すべき事態です。

米フロリダ州で、「中国政府が初動を誤ったため感染が広がり、被害を受けた」として同政府を訴える集団訴訟が起こされました。1000に及ぶ個人や団体がこれに加わっているといいます。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

瀬口:確かに、中国政府の初動には不備がありました。同政府はこの点を認めるべきです。しかし、同政府も新型コロナウイルスをまき散らそうと思って動いたわけではないでしょう。初動の不備は、日本政府のダイアモンド・プリンセス号への対応、米国政府のニューヨーク市への対応など、どの国でも多かれ少なかれ見られました。中国政府の問題だけではありません。

 今回の感染拡大は、米国政府が世界をリードして促してきたグローバル化の負の側面が表れたものと言えます。グローバル化はもろ刃の剣です。世界が緊密化することで経済が発展した一方で、パンデミックがより容易に起こるようになりました。したがって「○○のせい」として特定の国に責任を押し付けるのは間違いです。まして、賠償を求める筋合いのものではありません。

 今こそ我々は“犯人捜し”をするのではなく、グローバル化がもたらす負の側面にいかに対応すべきか、いかに互いに協力できるかを考えるべきです。G7やG20の場も生かして、グローバル時代の新たな秩序形成や協力の在り方を議論する時です。

 こうした取り組みを進める主体としては、もちろん各国政府が重要ですが、それだけである必要はありません。いろいろなレイヤーが考えられると思います。例えば、防疫対策の専門家が集まり今後いかにグローバルレベルで協力できるかを考える。国家、宗教などの違いを越えた思いやり、人間性の大切さといった心の問題について考えるレイヤーもあるかもしれません。今回のパンデミックを人類にとっての大きな悲劇で終わらせることなく、こうした国家や政府を越えるグローバルな取り組みを始めるきっかけにすべきです。