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ゴラン高原に関するイスラエルの主権を承認する文書に署名するトランプ大統領(左)。中央に立つのはイスラエルのネタニヤフ首相。その左後方はトランプ大統領の娘婿のクシュナー氏。政権の中東外交のカギを握る親イスラエル派(写真:ロイター/アフロ)

 米国のドナルド・トランプ大統領は3月25日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との首脳会談に合わせ、イスラエルが占領するシリア領ゴラン高原におけるイスラエルの主権を認める宣言に署名した。

 20年以上前、シリアを訪問したときのことだ。そのゴラン高原のそばで某国軍事関係者と話をしたことがある。その関係者が「こんなところを奪われるなんて信じられない」と、ぼそりとつぶやいたのを今でも鮮明に覚えている。

 軍事的にいうと、ゴラン高原は、守るに易し、攻めるに難し、いわゆる難攻不落の自然の要害という地形らしい。行ったことのあるかたはご存じと思うが、イスラエル側からみると、ずっと平たんな地が広がっているのが、突然、シリアとイスラエルをわける1949年の境界線のところでボコっとシリア側に盛り上がる感じだ。

 1967年の第3次中東戦争のとき、シリアはこの高原の高みから下に展開するイスラエル軍と対峙したことになる。イスラエル軍は地形的にも数的にも圧倒的に不利だったはずだが、攻撃開始後わずか2日でゴラン高原の大半を制圧し、軍政下に置いてしまったのである。

 1973年の第4次中東戦争でシリアはゴラン高原奪還を目指したが、数的優位にもかかわらず、作戦は失敗に終わった。その後、1981年にイスラエルは、イスラエルの法律と行政をゴラン高原に適用する法律を成立させ、事実上、ゴラン高原を自国領に併合してしまう。

 なお、第3次中東戦争の戦後処理の大枠を定めた国連安保理決議第242号はイスラエル軍の占領を否定、同軍が最近の紛争で占領した領域から撤退することを要求している。ちなみに、この決議には米国も賛成している。

 また、1981年のゴラン高原併合でも、国連安保理は決議497を全会一致で採択。イスラエルによる併合が無効であると断じ、決議242に従うよう、つまり1967年に占領した地域から撤退するよう再度要求したのである。もちろん、決議に賛成した国には米国も含まれる。

イスラエル「自衛のために必要ならば許される」

 米国はゴラン高原に関してイスラエルが非合法に占領しているという立場を一貫して堅持してきたのだ。ここが、エルサレム問題との大きな相違である。エルサレムの場合、米国は当初こそ国際管理にこだわっていたが、1990年代以降、歴代政権、議会ともにイスラエルの首都はエルサレムとの立場を明確にしていたからだ。これまでの米大統領が米国大使館のエルサレム移転にゴーサインを出さなかったのは、移転そのものに反対していたのではなく、移転すれば、アラブ諸国が反発し、中東和平プロセスが頓挫する可能性があるからといえるだろう。