全4189文字
(写真:ユニフォトプレス)

 2月末のハノイ・サミットが決裂した後、北朝鮮の完全非核化や朝鮮戦争を終了させるための合意が容易ではないことを示すような情報が発信されている。

 例えば、会談翌日の3月1日に北朝鮮の李外相と崔外務次官が今後の米朝関係につき楽観できない雰囲気になったことを述べたほか、同22日には韓国政府が昨年9月に南北共同で設置した連絡事務所からの撤収の通告を北朝鮮から受けたと発表した。同24日には中国の中共中央党校の張教授が、金委員長は米国が事前の認識と異なって未発表分を含めた全核施設のリストを提示し、その全ての破棄を迫ったことにショックを受けたと話した。張教授はまた、崔外務次官がサミット後の数週間を双方の意思を知るための試験期間だと考えているとともに、北朝鮮が米国の思い通りにはならないと話したことを明かした。一方、米国務省関係者は、米側は核に加えて化学兵器の廃棄も求めたと語った。

 しかし、両首脳は基本的に沈黙を続けており、両国の関係が完全に悪化したことを示唆するような発表もまだ出てきていない。

米朝間で続けられてきた北朝鮮の核廃棄交渉とは?

 現在の米国の外交戦略は基本的にゲーム理論を応用して作られると言われている。トランプ大統領が韓国大使への任用を検討したと伝えられるジョージタウン大学のチャー教授が、米誌に「北朝鮮は(核保有を武器に)昔と同じく米国にプレッシャーをかけるゲームを行っている」と語った背景にもこの発想がある。

 一方、北朝鮮は、1960年代から現在まで核兵器とそれを運ぶミサイルの開発を続けてきたが、特にミサイル関連兵器は同国の重要な外貨獲得手段でもある。このため北朝鮮が完全非核化とミサイル施設や技術を廃棄するためには、自国の安全だけでなく経済支援が必要で(3月6日付の拙稿「『ラストワンマイル』で先送りに転じた米朝首脳会談」参照)、この二つは絶対に譲れない条件である。

 米朝両国が長期にわたり行ってきた交渉は、米国にとっては、要求を完全非核化という一点に絞り、大統領の任期を無視すれば自分から攻撃せず半永久的に現状を続けるという持久戦が可能なものである。これに対し、北朝鮮の要求は、米国からできるだけ長く確実性の高い安全保障とできるだけ多い額の経済支援を引き出すという二つであり、どちらも金政権の生命線だ。ただし、35歳と若い金委員長には時間があるのも事実である。

 ちなみに、金委員長は軍事・経済両面において米国が到底太刀打ちできる相手ではないと分かっている。このため北朝鮮の核保有の意味は、命中度に不確実性の残る大陸間弾道弾で乾坤一擲を賭した勝負を米国に仕掛ける可能性と、核兵器を日本や韓国など近隣の米国の同盟国国民の大量殺戮に使う可能性の二つである。しかし、現行の北朝鮮の技術を前提とすれば前者の可能性はほぼ皆無であるほか、後者についても万一先制攻撃を行った場合の反撃を考えれば選択肢とはなりえないため、実は抜かずの宝刀なのだ。

 これが米朝間で行われてきた北朝鮮の核廃棄交渉(ゲーム)の大きな枠組みである。