
第2回米朝首脳会談が物別れに終わったことについて、日本では「トランプ大統領が安易な妥協をしなくてよかった」「これで、完全な非核化が実現するまで、米国が経済制裁の緩和をしないことが明らかになった」と安堵と評価の声が聞かれる。ドナルド・トランプ米大統領が完全な非核化と引き換えに経済制裁の撤廃というビッグディールを持ちかけたが、金正恩(キム・ジョンウン)委員長がこれを拒否し、会談は決裂したといった解説までなされている。
果たして実態はどうだったのだろうか? まず、トランプ大統領の記者会見の模様である。いつもの元気さが無く、マイク・ポンペオ国務長官を横に置き、交渉の詳細を同氏に説明させていた。およそ高揚感がなく、心ここにあらず、だった。北朝鮮が制裁の全面解除を求めたのが物別れの主たる要因だったと述べる一方、金正恩委員長を批判することはせず、なかなか大したやつだと評価していた。
また、ポンペオ国務長官が「数週間のうちに協議は再開されるだろう」と述べていることなどから、決して本格的な決裂ではなく、米国が完全な非核化の達成まで一切制裁解除をしない確固とした姿勢に戻った、と受け止めるのは的外れの感がある。第2回米朝首脳会談が物別れに終わったのは、同時進行した米議会でのコーエン証言*の影響で、生半可な米朝合意をしても大きなニュースにならないばかりか、小さな合意と批判されるのがオチだとトランプ大統領が判断したことが大きいと考えられる。
寧辺濃縮ウラン施設は“ディール”する価値があった
北朝鮮の今回のオファーについても吟味する必要がある。寧辺(ニョンビョン)の核施設の廃棄をオファーした。それには5メガの実験炉だけではなく、濃縮ウラン施設も含まれていると、北朝鮮は会談物別れ後の深夜の記者会見で述べていた。この濃縮ウラン施設は大規模な遠心分離機を備えた最重要核施設である。5メガの実験炉の廃棄だけなら、見せかけの非核化にすぎなかったが、濃縮ウラン施設を差し出したのは北朝鮮としては大きな決断だった。
もちろん、これだけでは完全な非核化には不十分であり、さらなる濃縮ウラン施設の存在と数十発分の核爆弾がある。しかし、寧辺濃縮ウラン施設の重要性を考えると、同施設の廃棄をまずは確実にし、それに対して経済制裁の一部を解除するといった交渉もありえたはずである。
今後、物別れ後の交渉をどう立ち上げるのか、容易ではない。しかし、対立が激化し、非核化交渉が頓挫するのは日本にとって決して望ましいシナリオでないことは明らかである。
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