2022年2月24日――。ロシアがウクライナに侵攻したこの日、私たちは「歴史の歯車」が逆回転する光景を目にした。それから約1年、第2次世界大戦後に培ってきた国際政治の秩序と世界経済の神話が音を立てて崩壊しつつある。

 カギとなるのはエネルギー、特に原油価格の動向だ。原油価格が高騰し、かつ円安が進行すれば交易条件が悪化し、日本から巨額の国富が流出しかねない。ゼロコロナ政策を転換した中国経済の動向によっては、エネルギー需給が逼迫することもあり得る。

 日経ビジネスLIVEは2月、「ウクライナ侵攻から1年 エネルギー危機は23年が本番、日本経済『窮乏化』を阻止せよ」と題するウェビナーを開催。登壇したのは、みずほ証券エクイティ調査部の小林俊介チーフエコノミストだ。世界秩序の転換が日本経済、そして企業経営にどんな影響を及ぼすのか。経済分析のプロに展望を語っていただいた。

 (構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります。文中に登場する人物の肩書は、当時のまま記載している場合があります)

森永輔・日経ビジネス・シニアエディター(以下、森):皆さん、こんばんは。本日は「ウクライナ侵攻から1年 エネルギー危機は23年が本番、日本経済『窮乏化』を阻止せよ」をテーマに、みずほ証券チーフエコノミストの小林俊介さんにご登壇いただきます。小林さん、よろしくお願いいたします。

小林俊介・みずほ証券チーフエコノミスト(以下、小林氏):皆さん、こんばんは。本日するお話の中核部分は、ウクライナ戦争によって世界経済や日本経済がどのようなインパクトを受けているのか、今後、それをどう回避していくかです。

 その前提として、ウクライナ戦争が歴史的にどのような意義を持つのかを概観したいと思います。

冷戦後の平和な時代は転換点を迎えていた

小林氏:まず、冷戦後に進んだグローバリゼーションが10年以上前から転換点を迎えていた可能性があります。転換後の世界を象徴する1つの現象として今回のウクライナ危機を位置づけると、これまでばらばらだった点と点が線としてつながる形で国際政治経済を整理することができると思います。

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 そこで共有したいのが「国際政治経済のトリレンマ」という考え方です(上の図)。米ハーバード大学ケネディ・スクールのダニ・ロドリック教授が提唱しました。「国家主権、民主主義、グローバリゼーションという3つの目標を同時に満たすことはできない。少なくとも、1つか2つは落とさなければならない」ということを示しています。

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