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若者の支持を集めるムハンマド皇太子(提供:SPA/AFP/アフロ)

 2018年10月、トルコの古都イスタンブールにあるサウジアラビア総領事館でサウジ人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ(ジャマール・ハーショグジー)氏が殺害された事件は、サウジアラビアとしては早々に幕引きをはかりたいだろうが、なかなかそうさせてもらえない。特に事件の黒幕と噂された同国の事実上の最高権力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(以下、ムハンマド皇太子)は、あいかわらずトルコや欧米メディアから激しい突き上げにあっている。

 そもそもサウジ当局による事件のハンドリングがまずかった。最初の段階で殺害を認めず、ジャーナリストが領事館を出てから行方不明になったと主張していたのが、やがて申し開きできなくなって、領事館内で殺害されたとしぶしぶ認めたのである。この初動の失敗によりその後のサウジ側の証言の大半が信ぴょう性を失ってしまい、何を言っても信用されなくなってしまったわけだ。

 サウジ当局は、殺害の容疑者11人を告訴、そのうち5人には死刑を求刑したことを明らかにした。しかし、その肝心の11人が誰なのか、今もってはっきりしない。まずサウジ当局がイスタンブールに派遣した「暗殺部隊(サウジ側によれば、説得部隊)」は15人、そしてサウジアラビアが逮捕・拘束したと報じられた人数が18人。どちらにせよ数字が合わない。

 しかも、事件の主犯と目されたスウード・カフターニー王宮府顧問(当時)とアフマド・アシーリー総合諜報庁副長官(同)の2人は確かに事件に関与したとして「解任」されはしたが、彼らが逮捕されたかどうかは確認できなかった。それどころか、カフターニーがいまだ拘束されておらず、事実上の顧問としてムハンマド皇太子にアドバイスを与えつづけているとの報道もある。仮にそれが事実なら、サウジアラビアがこの事件を本気で解決する気があるのか疑いたくなる(彼らが無罪であれば、その証拠を出すべきだし、無罪でないのなら、容疑者の現状について何らかの情報を明らかにすべきだ)。

 トルコ側は、ムハンマド皇太子を激しい言葉で批判し、サウジ側の捜査に対しあからさまな不満を表明しつづけている。このままではトルコとサウジアラビアの関係はますます悪化するばかりだが、今のところ微妙なところで踏みとどまっている。例えば、トルコは政府関係者・メディアともに、事件の背後にムハンマド皇太子がいることを示唆し、場合によっては非常に厳しい口調でムハンマド皇太子を非難しているものの、彼の父であるサルマン国王についてはむしろ敬意をもった扱いをしている。これは、トルコが求めるのはムハンマド皇太子の排除だけで、サウジアラビアと全面対決するつもりはないとも理解できる。