全人代で報告をする李克強総理(写真:AP/アフロ)
全人代で報告をする李克強総理(写真:AP/アフロ)

 中国は「一党支配」の国だ。憲法にも「共産党が指導する」と書いてある。一方で全国人民代表大会(全人代)は、国民を代表する組織として中華人民共和国成立後の1954年に設置され、憲法には「国家最高権力機関」だと書かれている。

*1:地方の各レベルの行政区にも「人民代表大会」が設置されている。代議員による選挙により人民代表を選出する。共産党員が多数を占めるが、民主党派や無党派も含まれ、都市と農村、男女、漢族と少数民族などにおいても、一定のバランスが確保されている。全国人民代表大会は、憲法を改正し、憲法の実施を監督し、各種法律の立法権を持つ。国家主席を選出し、主席の提案の基づき国務院総理を決定する。国務院総理の指名に基づき大臣(部長)を決定する。また最高検察院院長および最高法院院長を選出する。

 共産党に指導されているのに“最高権力機関”などと言われると、われわれの頭は混乱してしまうが、彼らにとっては問題ないらしい。彼らは中国のあらゆる空間を指導するのが共産党の役割であり“厳粛な使命”だと思っているからだ。その全人代は3月15日に、10日間の日程を終了した。

 5年に1度開かれる党大会直後の全人代は、国家主席と国務院総理が選出され、また主要な憲法改正もこのときに行われることが多いので注目度も高い。それが昨年の全人代だった。憲法が改正され、国家主席の任期制が撤廃され、「習近平思想(習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想)」が書き込まれた。党の重職を辞し、平党員になった王岐山が何と国家副主席に選出されたりした。

知識は十分、だが現場体験から来る知見が不十分

 2019年の全人代は、それに比べるとあまり関心を呼ばないはずだったのに、かなり注目された。その理由は大きく二つある。一つは減速する中国経済の現状に対し中国がどう対応をするかに、関心が集まったからだ。もう一つは米中経済摩擦の収束の見通しが立たない中で、中国の対応について何らかのヒントが出てくるのではないかという期待からであった。

 第1の中国経済に関して言えば、総理の李克強(リー・クォーチャン)は、中国経済が難しい局面にあることを率直に認めるとともに、米中の経済摩擦が一部企業の経営および市場の将来予測に不利な影響を与えたと認めている。それでも18年は良い成績を残せたというのが結論だが、情勢判断はしっかりしていると言ってよい。「19年もしっかりやりますので、6~6.5%の経済成長は大丈夫です」、という部分が、さらに付け加わる。

*2:李克強報告の該当部分は次の通りである:われわれは外部環境の深刻な変化に直面している。経済のグローバル化にトラブルが生じ、多国間主義は打撃を受け、国際金融市場は揺れ動いている。特に中米経済貿易摩擦は、一部企業の生産と経営および市場の将来予測に不利な影響を与えている。われわれは経済転換の陣痛を伴う厳しい挑戦に直面している。新旧の矛盾が交錯し、周期的、構造的問題が付け加わり、経済運営は「安定(穏)」の中に「変化(変)」があり、「変化」の中に「懸念(憂)」がある。われわれは「両難多難」な問題が増加した、複雑な局面に直面している。

 だが正しい判断とそれに従い正しく行動した結果が、成功に結びつくとは限らない。ここに中国の抱える真の課題がある。改革開放の40年で中国は、日本が100年、欧米が150年かけて得た成果を、ほぼ一挙に実現した。つまりスピードが速すぎるということである。一つの段階を教科書で懸命に勉強し、必死になって実施に移し、だが経験が生半可なまま、もうその次の段階に進まなければならない。このような状態が40年間継続中だ。

 中国の政策立案者たちは、さまざまなことを実によく知っている。しかし現場体験から来る知見が不十分なのだ。中国共産党の中堅幹部から、さらにその下の実施部隊に至っては、多くのことを正確に理解できていないまま、上からの命令や指示に従い進んでいる。見たことも経験したこともないことを正確に理解しろといっても、できるはずがない。

 そのなかで、李克強の言葉を借りれば「安定した成長と危険の予防という多重の目標を実現し、経済社会の発展という多項目の任務を達成し、現在および長期的な多種の関係を上手に処理しなければならず、政策の選択と仕事の遂行の難度は顕著に増大している」というのだ。これらは全てまとめて現場の仕事となる。

続きを読む 2/2 「中国に修正の兆候あり」と判断するのは時期尚早

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